こんにちは。「薬剤師の歩き方」で記事を書いている、転職案内人と申します。現役の薬剤師で、いまは調剤薬局で5店舗を管轄する係長として働いています。薬剤師歴は12年になりました。

「病院薬剤師 辞めたい」「病院薬剤師 つらい」——そう検索して、この記事にたどり着いたのだと思います。病棟業務の合間に、当直明けのぼんやりした頭で、あるいは仕事が終わったあとの帰り道で、誰にも言えない気持ちを検索窓にだけそっと打ち込んだのかもしれません。

まず、これだけは伝えさせてください。病院薬剤師で「つらい」「辞めたい」と感じるのは、甘えでも根性が足りないからでもありません。 その気持ちは、本物です。

私自身は調剤薬局の畑を歩いてきましたが、薬剤師を採用し受け入れる立場として、病院から調剤薬局へ転職してきた薬剤師の話をたくさん聞いてきました。面接で病院出身の方とお会いするたびに感じるのは、みなさん口をそろえて「やりがいはあった。学びも多かった。でも、業務量と年収が見合わなくて消耗してしまった」とおっしゃることです。病院の仕事は、外から見えるよりずっと幅広く、神経をすり減らす仕事なのだと、受け入れる側として何度も実感してきました。

私は2年前、自分自身も転職活動をしました(いろいろ考えた末、最終的には今の職場に残りました)。だからこそ言えます。「辞めたい」と口に出せずに抱え込んでいる人は、思っているよりずっと多いです。あなただけではありません。

ただ、ひとつ正直にお伝えしたいこともあります。つらい気持ちは本物でも、勢いだけで動くと損をすることがある、ということです。だからこの記事では、「今すぐ辞めよう」と背中を押すのでも、「もう少し我慢しよう」と引き止めるのでもなく、一度立ち止まって、後悔しない進み方を一緒に整理する——そんなつもりで書いていきます。急いで結論を出さなくて大丈夫です。少しだけ、お付き合いください。

病院薬剤師が「つらい・辞めたい」と感じる、よくある理由

まず、どうして病院薬剤師の仕事が「つらい」と感じやすいのか。病院から転職してきた人の話を聞き、受け入れる側として整理してきた感覚で、まとめてみます。自分の気持ちに近いものがあるか、確かめながら読んでみてください。理由がはっきりすると、次に何をすればいいかも見えてきます。

給与・年収が、調剤やドラッグストアに比べて低めになりやすい

病院から転職してくる方がいちばん多く口にするのが、年収のことです。 病院薬剤師は、業務量が多く専門性も求められる一方で、調剤薬局やドラッグストアと比べると年収が低めになりやすいと言われます。しかも昇給の幅もゆるやかで、何年勤めても給料が大きくは変わらない、という声も聞きます。「仕事には誇りを持っている。でも、これだけ働いてこの年収かと考えると、将来が不安になる」——これは、欲張りな悩みではありません。生活や家族のことを考えれば、当然の不安です。

当直・オンコールの負担

病院ならではの大きな負担が、当直やオンコールです。 夜間や休日も薬剤師が病院に詰める、あるいは自宅で呼び出しに備える——この体制があるからこそ、医療は回っています。ただ、当直明けでそのまま通常業務に入る、オンコールでいつ呼ばれるか分からず気が休まらない、といった生活が続くと、心も体もすり減っていきます。「生活のリズムが作れない」「家族との時間が合わない」という声も、転職してきた方からよく聞きます。これは気の持ちようでどうにかなるものではなく、体制そのものから来る負担です。

業務量が多く、とにかく幅広い

病院薬剤師の仕事は、驚くほど幅広いと言われます。病棟での服薬指導や処方提案、調剤、無菌製剤や注射薬の調製、医薬品の在庫・品質管理、各種委員会への参加、勉強会の準備、実習生や新人の指導——挙げればきりがありません。「薬剤師の仕事は調剤だと思っていたら、実際はそれ以外の業務が大半だった」と感じる方も少なくありません。一つひとつにやりがいはあっても、すべてが同時に降りかかってくると、「いったい自分は何屋なんだろう」と立ち止まってしまうのも無理はありません。

多職種との連携で、気を遣う人間関係

病院は、医師・看護師をはじめ、さまざまな職種が一つの建物の中で働く場所です。チーム医療のなかで薬剤師の専門性を発揮できるのは大きなやりがいですが、その分、多職種との連携で神経を使う場面も多いようです。処方提案をどう伝えるか、忙しい医師にいつ声をかけるか、看護師との情報共有をどうするか——こうした気遣いの積み重ねが、じわじわ疲れにつながることがあります。加えて、薬剤部の中の上下関係や、規模の大きい病院ほど根強い組織の縦のつながりに、息苦しさを感じる方もいます。

学べる環境だからこその、勉強・資格取得のプレッシャー

病院は、薬剤師として学べる環境がそろっているとよく言われます。これは大きな魅力です。ただ、裏を返せば、常に勉強し続けることが当たり前とされる空気があり、それがプレッシャーになることもあります。専門・認定の資格取得を求められたり、休日に学会や研修に参加したり、症例の勉強を自宅でも続けたり。向上心のある方ほど頑張ってしまい、気づけば休みも研鑽にあてている——「学びたい気持ちはある。でも、休む時間がない」という葛藤を抱える方は、思いのほか多いようです。

異動・配置転換・ローテーションの負担

規模の大きい病院では、部署のローテーションや配置転換があることも珍しくありません。いろいろな業務を経験できるという良さがある一方で、せっかく慣れた頃に新しい部署へ移り、また一から覚え直す——その繰り返しに疲れてしまう方もいます。調剤、病棟、製剤、医薬品管理と回るうちに、「自分が本当にやりたいことは何だったのか」が見えにくくなる、という声も聞きます。腰を据えて一つの専門性を深めたい人にとっては、この異動の多さがストレスになることがあります。

「やりがいはあるが消耗する」という構造

ここまで挙げてきた負担を一言でまとめると、多くの方が「やりがいはある。でも消耗する」と表現します。患者さんの治療に深く関われる、専門性を高められる、チーム医療の一員として頼られる——病院ならではのやりがいは確かにあります。だからこそ、「こんなにやりがいのある仕事を辞めたいと思う自分は、わがままなのだろうか」と、自分を責めてしまう方もいます。でも、やりがいと消耗は、別ものです。年収と業務量が見合わない、心身が休まらない——その実感があるなら、立ち止まって考えていい悩みです。決してわがままではありません。


いくつ当てはまったでしょうか。ひとつだけの人もいれば、複数が絡み合っている人もいると思います。自分が何にいちばん疲れているのかを言葉にできると、それだけで少し気持ちが整理されます。 「年収が見合わないのがつらい」のか、「当直・オンコールがきつい」のか、「業務の幅広さに消耗している」のか。ここがはっきりすると、次の章の「動くべきか、立ち止まるべきか」も見えやすくなります。

その「辞めたい」は、今すぐ動くべき?それとも一度立ち止まるべき?

「辞めたい」と一口に言っても、状況によって取るべき行動はまったく違います。ここを見分けるのが、後悔しないための分かれ道です。中立に、目安をお伝えします。

こんなときは、無理せず離れることを最優先に

次のような状態なら、何よりもまず自分を守ることを優先してください。

こうした状態は、根性や気の持ちようでどうにかするものではありません。心や体が限界に近づいているサインです。 とくに病院の仕事は、集中力が落ちた状態で無理を続けると、判断のミスにつながりかねません。それは、あなた自身のためにも、患者さんのためにも良くありません。ここで「人手が足りないのに当直の穴をあけたら迷惑だから」と無理を重ねると、回復に長い時間がかかってしまうことがあります。追い詰められているなら、離れていいんです。自分を守ることは、わがままでも逃げでもありません。この場合は、後で触れる「いったん休む」という選択肢も現実的になります。

こんなときは、一度立ち止まって整理してから

一方で、次のような状態なら、勢いで動く前に少し整理する時間を取ったほうが、結果的に得をすることが多いようです。

つらい気持ちは本物でも、感情がピークのときに出した結論は、後で「早まったかも」と思いやすいものです。私が見送ってきた中でも、勢いで辞めて次を急いで決めた人ほど、「もう少し考えればよかった」と言うことが多かった印象です。辞めるかどうかを今すぐ決めず、まずは情報を集めて選択肢を並べてみる——それだけでも、気持ちはかなり落ち着きます。

大事なのは、自分がどちらに近いのかを冷静に見極めることです。限界が近いなら迷わず離れる。そうでないなら、一度立ち止まる。この見分けができれば、次の選択肢選びはぐっと楽になります。

病院薬剤師の、4つの選択肢

「辞めたい」の答えは、「今の病院を辞める」だけではありません。選択肢は大きく4つあります。それぞれのメリットと向いている人を中立に整理しますので、自分の状況に合うものを探してみてください。

① 今の病院の中で、相談したり異動したりする

意外と見落とされがちなのが、病院は変えずに、部署や働き方を相談するという選択です。

たとえば「当直・オンコールの負担が重い」なら回数や分担の見直しを、「今の部署の業務量がきつい」なら別部署への異動を相談してみる。「業務が一部に偏っていてしんどい」なら、分担の調整をお願いするのも一つです。受け入れる側の立場から正直に言うと、辞表を出される前に相談してもらえたほうが、組織としても動きやすいものです。一度、相談という形で動いてみる価値はあります。

② 別の病院へ移る

「病院薬剤師の仕事自体は好き。でも今の病院がつらい」という場合は、別の病院への転職が選択肢になります。

たとえば、忙しい急性期の総合病院から、比較的落ち着いた慢性期やケアミックスの病院へ移ると、当直の頻度や業務の密度が変わることがあります。注意したいのは、「隣の芝生は青い」になりやすい点です。病院である以上、当直・オンコールや業務の幅広さといった、業態そのものに根ざしたつらさは、病院を変えても残ることがあります。移る前に「自分が嫌なのはこの病院固有のことか、病院という働き方そのものか」を見極めておくと、失敗しにくくなります。病院への転職で見るべきポイントは、病院薬剤師への転職ガイドでも整理していますので、あわせて読んでみてください。

③ 調剤薬局・ドラッグストア・企業など、別業態へ移る

「病院という働き方そのものを変えたい。年収を上げたい、当直から離れたい」なら、別の業態への転職という選択肢があります。ここは、私の本職である調剤薬局の知見も交えてお話しします。

ここで大事なことを一つ。「病院から調剤に移ると、これまでの経験が無駄になるのでは」と心配する方がいますが、そんなことはありません。 病院で培った臨床力——病棟で多くの症例に触れ、医師や看護師と渡り合い、患者さんの治療に深く関わってきた経験は、調剤薬局でも在宅医療でも、確実に活きます。実際、私が受け入れてきた病院出身の方は、処方の意図を深く読む力や、患者さんへの説明の的確さで、すぐに現場の戦力になっています。一方で、業態が変わると働き方も変わります。ドラッグストアは年収が上がりやすい反面、品出しや接客、土日のシフトといった別のつらさもあると言われます。「今のつらさから逃れたら、別のつらさが待っていた」とならないよう、移る先のリアルもよく調べておくことが大切です。ドラッグストア薬剤師への転職ガイド調剤薬局のいい職場の見分け方で、移る先のリアルも整理していますので、あわせて読んでみてください。

④ いったん休む・休職する

辞めるかどうかを決める前に、まず休むという選択肢もあります。心身の不調が出ているなら、これがいちばん大事かもしれません。

「休む=負け」ではありません。むしろ、消耗しきった頭で人生の大きな決断をしないために、いったん距離を取る——これは賢い選び方です。まずは心療内科や、病院の産業医に相談してみるのも一つの方法です。病院は産業保健の体制が整っていることも多いので、まずはそこを頼ってみてください。


4つのうち、どれが正解ということはありません。心身が限界なら④休むを優先、まだ余裕があるなら①院内で動く・②別の病院へ・③別業態へを比べる——というのが、ざっくりした目安です。複数を組み合わせてもかまいません(まず休んでから、業態を変えるか考える、など)。「辞めたい」と思ったとき全般の選択肢については、薬剤師を辞めたいと思ったらでも整理していますので、あわせて読んでみてください。

なお、ここまでの選択肢とは別に、「そもそも退職を言い出せない」ときの手段として退職代行があります。人手不足で強く引き止められる、当直のシフトを気にして切り出しにくい、心身が限界で組織とやり取りするのもつらい——病院では、こうした事情で「辞めたくても辞められない」状況が起きやすいものです。そんなときは、無理をせず退職代行に頼るのも一つの方法です。薬剤師ならではの注意点(医薬品管理や担当業務の引き継ぎなど)を含めて、薬剤師が退職代行を使う前に知っておきたいこと退職代行サービスの選び方で解説していますので、あわせて読んでみてください。自分を守ることを、最優先に。

後悔しないために——動く前に整理しておきたいこと

最後に、転職を考えている、まだ少し余裕がある方へ。私が転職活動を経験し、辞めていく人を見送り、病院から移ってくる人を受け入れてきた立場から、後で後悔しないための実務的なアドバイスをお伝えします。心身が限界の方は、ここは無理に読まず、まず休んでくださいね。

次を決めてから動くと、損をしない

いちばん伝えたいのはこれです。辞めてから次を探すより、在職中に次を決めてから辞めるほうが、圧倒的に有利です。

退職してしまうと、収入が途切れる不安から、焦って妥協した職場を選びがちになります。在職中なら、収入を確保したままじっくり比べて選べます。心身に余裕があるなら、辞表より先に情報収集——この順番を強くおすすめします。やってみて「やっぱり今の病院のほうがよかった」と思えば、辞めなければいいだけ。情報を集めて選択肢を並べるだけなら、失うものは何もありません。

年収だけでなく、働き方で選ぶ

病院からの転職でいちばん悩ましいのが、年収と働き方のバランスです。たとえば調剤薬局やドラッグストアに移ると年収が上がることもありますが、それと引き換えに、これまでのような臨床への深い関わりが薄くなることもあります。逆に別の病院へ移れば臨床は続けられますが、年収の大きな改善は望みにくいかもしれません。薬剤師全体の年収の目安は薬剤師の年収相場まとめでも整理していますので、比べるときの参考にしてみてください。

大事なのは、「自分は何のために環境を変えたいのか」をはっきりさせることです。「年収を上げて、当直のない生活がほしい」のか、「年収より、臨床に関わり続けることを優先したい」のか。優先順位は人それぞれです。数字の高さだけで決めず、自分にとっての"働きやすさ"を物差しに加える——これが、後悔しない選び方につながります。

自分が「何に疲れたのか」を言語化しておく

転職で失敗しやすいのは、前の職場で嫌だったことを、次の職場でも繰り返してしまうパターンです。「当直がきつくて辞めたのに、次の病院でも当直の回数が多かった」とならないために、まず自分が何に疲れたのかを具体的な言葉にしておくことが大切です。

年収なのか、当直・オンコールの負担なのか、業務の幅広さなのか、多職種との人間関係なのか、勉強や資格のプレッシャーなのか、異動の多さなのか。それがはっきりすれば、次の職場で確認すべきポイントも見えてきます。当直の頻度はどうか、業務分担はどうなっているか、教育や資格取得の体制は、異動の有無は——求人票の数字を見る、面接で具体的に質問する、転職エージェントに内部事情を聞く。こうした下調べが、同じ失敗を防いでくれます。

辞め方の評判は、業界に残る

薬剤師業界は、思っている以上に狭い世界です。とくに同じ地域の病院どうしや、病院と地域の薬局は、どこかでつながっていることが多いものです。辞め方の評判が、次の職場にまで伝わることがあります。 もちろん、心身の限界やハラスメントといった事情があるなら、評判より自分を守ることが最優先です。ただ、そうでないなら、できる範囲で円満に——とくに担当していた病棟業務や、医薬品管理の引き継ぎは、丁寧に段取りを整えてから辞めると、後々の自分が動きやすくなります。「我慢しろ」ではなく、「自分の将来のために出口も意識しておくと得」という実務の話です。

まとめ——つらい気持ちを否定せず、でも納得して進もう

長くなったので、最後に大事なところだけまとめます。

病院薬剤師の仕事は、外から見えるよりずっと幅広く、神経を使う仕事です。「やりがいはあるのに辞めたいなんて」と、自分の気持ちにふたをする必要はありません。でも、その気持ちのまま勢いで動くのも、少しもったいない。つらさを認めたうえで、自分が納得できる進み方を選ぶ——それが、いちばん後悔の少ない一歩だと、5店舗を見てきた立場として思います。病院で培った臨床の力は、どの道に進んでも、あなたの大きな財産として残ります。

辞めるにしても、残るにしても、休むにしても。あなたが自分を大切にする選択ができることを、心から願っています。まずは、いまの自分にどんな選択肢があるのかを知ることから。それだけでも、見える景色はきっと変わります。

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※本記事は一般的な情報と現場での経験をもとに整理したものです。心身の不調が続く場合は、無理をせず医療機関や産業医、公的な相談窓口にご相談ください。