こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年、自分自身も2年前に転職活動を経験しました(最終的には現職に踏みとどまっています)。

「うちの会社、最近本社の様子がおかしい」「上層部だけで何か話しているみたいだけど、現場には何も降りてこない」——もしそう感じているなら、それは気のせいではないかもしれません。調剤薬局業界では近年、M&A(合併・買収)や事業譲渡による店舗の統廃合が増えている傾向にある、と業界内でよく言われています。少子高齢化による薬局同士の競争激化や、後継者不在の薬局が大手に譲渡されるケースが増えていることなどが背景として語られています。

先にお伝えしておくと、M&A・事業譲渡の話が出たからといって、その瞬間に働き方が大きく崩れるとは限りません。契約締結から実際の引き継ぎ(クロージング)までには一定の段階を踏むのが一般的とされており、通知を受けたその日にいきなり職を失う、というケースは稀だと考えられます。ただし、これも会社や状況によって差があるため、断定はできません。

この記事では、「転職を考えるタイミングの一例」としてM&Aに軽く触れている転職を始めるタイミング30代の転職の記事とは違う切り口で書きます。もう一歩踏み込んで、「会社側・管理する側は、M&Aや事業譲渡が決まったときに何を考え、どう動いているのか」という、現場からは見えにくい舞台裏を解説します。管理する立場に立ったことがある人間として、人員配置や店舗再編がどういう論理で決まっていくのかが分かれば、いま抱えている不安の「解像度」が上がり、次の一手を落ち着いて考えやすくなるはずです。

なぜ会社は、決まったことをすぐに詳しく説明してくれないのか

一般論M&Aや事業譲渡の話が出ると、現場からいちばんよく聞かれるのが「なぜもっと早く、もっと詳しく教えてくれないのか」という不満です。これには、会社側の事情がいくつか絡んでいると一般的に言われています。

理由①:契約がまとまるまでは、社外にも社内にも話せない段階がある

M&Aや事業譲渡は、いきなり「決定しました」と発表されるわけではなく、水面下での交渉・条件のすり合わせ・最終契約の締結・実際の引き継ぎ(クロージング)という段階を踏んで進むのが一般的だとされています。契約がまとまる前の段階で情報が漏れると、交渉そのものが破談になったり、患者・取引先の信頼に関わったりするリスクがあるため、関係者はかなり狭い範囲に限定して情報を扱う、というのはM&A全般でよく言われる話です。現場の薬剤師に情報が降りてくるのが、契約後・発表直前になりやすいのは、隠しているというより、そういう性質のプロジェクトだからという面があります。

理由②:説明する順番、伝える相手の順番がある

会社が方針を発表するときは、株主や取引先、行政への手続き、そして従業員という具合に、伝える相手の順番や、それぞれに説明すべき内容の粒度が事前に整理されていることが一般的です。従業員への説明が後回しにされているように感じても、それは軽視されているからではなく、社内の意思決定プロセス上、そういう順番にならざるを得ないことが多い、と理解しておくと少し見え方が変わります。

理由③:細部が「まだ決まっていない」ことも多い

意外に思われるかもしれませんが、M&Aや事業譲渡の発表段階では、個々の店舗の人員配置や、誰がどの店舗に異動するかといった細部は、まだ確定していないことも多いとされています。大枠の方針(どの会社と、どういう形で事業を引き継ぐか)が先に決まり、店舗ごとの体制は発表後にすり合わせが進むケースがある、というのも知っておくと、説明の「歯切れの悪さ」の理由が見えてきます。

人員配置は、どういう論理で決まっていくのか

実体験複数店舗を管轄する立場として、店舗の人員配置や再編にまつわる話を耳にする機会はあります。具体的な店舗名や時期を挙げられるような話ではありませんが、管理する側が人員を考えるときに、一般的にどんな要素を見ているかは、ある程度整理できます。

要素①:薬局として成立させるための法定要件

一般論薬局には、管理薬剤師を置くことをはじめ、薬局を開設・運営するうえで満たすべき人員体制の要件があるとされています。M&Aや事業譲渡で店舗の運営主体が変わっても、薬局として営業を続ける以上、この要件を満たし続ける必要があるという点は、人員配置を考えるうえで押さえておきたい制約のひとつです。誰をどの店舗の管理薬剤師にするかは、資格・経験年数・実務上の適性などを踏まえて決められることが多いと言われています。

要素②:店舗ごとの開設許可・保険薬局指定の扱い

薬局を運営するには、行政からの開設許可や、保険薬局としての指定といった手続きが必要とされています。運営主体が変わる際には、これらの許可・指定について別途手続きが必要になる場合があると一般的に言われています。この行政手続きの区分は、事業譲渡・合併・会社分割といった労働契約の承継区分とは別の制度であり、単純に連動するとは限りません。手続きにかかる時間や行政とのやり取りのスケジュールが、店舗の統廃合や異動のタイミングに影響することもある、という程度の理解に留めておくのが安全です。詳細は各都道府県・保健所の窓口に確認するのが確実です。

要素③:近隣店舗との重複、エリア戦略

M&Aや事業譲渡では、譲渡元と譲渡先の店舗網が近い地域で重なることがあります。近接する店舗が複数残ることになった場合、統合や閉店を検討する材料になりやすい、というのは業界内でよく語られる一般論です。逆に、譲渡先の会社にとって手薄なエリアの店舗であれば、維持・強化される方向で検討されることもあります。どちらに転ぶかは会社の戦略次第で、現場からは事前に予測しづらい部分です。

要素④:薬剤師の採用・定着コストへの意識

薬剤師は採用にも育成にもコストと時間がかかる、という認識は業界全体で共有されています。そのため、会社側としても、経験のある在籍スタッフをできる限り引き継ぎたいと考える傾向がある、というのは一般的に語られる話です。もちろん店舗の統廃合が絡む場合、全員をそのままの配置で維持できるとは限りませんが、「辞めさせたい」という発想よりも「できれば残ってほしい」という発想の方が、会社側の基本姿勢としては強いことが多いとされています。ただし、これは会社側の基本姿勢の話であって、個々の従業員の雇用が保証されるという意味ではありません。特に事業譲渡の形態では、前述の通り個別の同意・再契約のプロセスが挟まることもあるため、「引き継ぎたいと考えている会社が多い」という傾向と、「自分の契約がどう扱われるか」は分けて確認する必要があります。

管理職としてのキャリアの積み方や、管理する側の視点そのものについては管理薬剤師・管理職としてのキャリアで別途扱っているので、興味のある方はあわせてご覧ください。

雇用契約はどうなるのか(形態による違いの一般整理)

一般論ここは特に断定を避けるべき領域です。M&Aや事業譲渡には、大きく分けて「事業譲渡」「合併」「会社分割」といった形態があり、どの形態を取るかによって、従業員の雇用契約の扱いが異なる、というのが一般的な整理です。

形態雇用契約の扱いについて一般的に言われていること
事業譲渡従業員との雇用契約は自動的には引き継がれず、個別の同意・再契約が必要になる、と説明されることが多い
合併雇用契約を含め、権利義務が包括的に引き継がれる、と説明されることが多い
会社分割一定の手続き(労働者への通知・協議等)を経て、契約が承継されることが多い、と説明されることが多い

ただし、これはあくまで一般的な傾向として語られている内容であり、実際にどう扱われるかは契約内容や個別の事情によって異なります。給与・退職金・有給休暇の扱いについても、「引き継がれるケースが多いとされているが、最終的には契約内容による」という慎重な理解にとどめておくのが安全です。法律の詳細な解釈や、自分のケースがどれに当てはまるかについては、この記事では判断せず、社会保険労務士・弁護士・労働基準監督署など専門家への確認を強くおすすめします。

会社から通知が来たら、まず確認すべきこと

ここからは、実際に会社から正式な通知があった段階を想定して整理します。まだ噂や違和感の段階で、正式な発表が出ていない方は、このチェックリストは「実際に通知が来たときのための予行演習」として先に目を通しておくと、いざというときに慌てずに動けます。実際に会社からM&Aや事業譲渡の通知があったとき、パニックにならずにまず確認しておきたいことを整理しました。

一度にすべてが説明されるとは限りません。説明会や書面で分かったことと、まだ分からないことを自分の中で分けて整理しておくと、後から質問すべき点が明確になります。焦って即断即決する必要はなく、まずは事実確認を淡々と進めることが最初の一歩です。

今からできる備え

M&Aや事業譲渡は、業界全体の傾向として今後も一定数起こり続けると見られています。「自分の職場は大丈夫」と決めつけず、普段からできる備えを持っておくと、いざというときに慌てずに動けます。

備え①:普段から業界動向・自社の状況にアンテナを張っておく

先述の通り、契約の具体的な内容そのものは、まとまる前に現場へ伝わることは少ないとされています。ただし、業界全体の統廃合の動きや、自社・親会社の経営状況といった大きな流れは、業界紙やニュースで日頃から追える情報です。「自分の会社の契約内容を事前に知る」ことは難しくても、「業界がどういう方向に動いているか」を知っておくだけで、いざ通知が来たときの心構えは変わります。

備え②:スキルの汎用性を高めておく

特定の店舗のオペレーションだけに強い状態より、どの薬局でも通用する調剤スキル・在宅対応・OTC知識などを持っている方が、店舗が変わっても、あるいは転職が必要になっても選択肢が広がります。得意分野を1つに絞りすぎず、幅を持たせておくことが結果的に自分を守ります。

備え③:職務経歴を、いつでも書き出せる状態にしておく

いざ転職を考えたときに、職務経歴書をゼロから作り始めると時間がかかります。担当してきた業務内容、実績、資格取得の履歴などを普段からメモしておくと、いざというときの立ち上がりが早くなります。書き方の基本は職務経歴書の書き方にまとめているので、参考にしてください。

備え④:社内・社外の人脈を維持しておく

同業種の知人や、以前の職場の同僚とのつながりは、いざというときの情報源にも、転職先の選択肢にもなり得ます。日頃から連絡を絶やさない程度の関係を維持しておくと、有事の際に相談できる相手が増えます。

備え⑤:転職市場の相場感を普段から把握しておく

自分の経験・年齢・エリアで、どの程度の条件が相場なのかを知らないまま話が進むと、会社から提示された条件が妥当かどうかの判断がしづらくなります。薬剤師の給与相場を定期的にチェックしておくだけでも、いざというときの判断材料になります。

「転職すべきか、様子を見るべきか」の判断軸

通知を受けたあと、すぐ転職活動を始めるべきか、もう少し様子を見るべきか迷う人は多いはずです。ここも断定はできませんが、判断の軸として一般的に整理されている考え方を紹介します。

状況考え方の一例
雇用契約・給与条件がほぼそのまま引き継がれる見込みまずは様子を見て、実際の変化を確認してから判断しても遅くないことが多い
勤務地・給与条件に明確な不利益変更がある条件を書面で確認したうえで、並行して転職市場の情報収集を始めておくと安心
店舗の閉店・統合が決まっている猶予期間の有無を確認しつつ、早めに選択肢を広げておく方が動きやすい
情報が不透明で、説明も曖昧なまま時間だけが経過している不安を抱えたまま待ち続けるより、情報収集だけでも先に始めておくと精神的な負担が減る

大切なのは、「転職するかどうか」を今すぐ決めることではなく、「いつでも動ける状態」を作っておくことです。情報収集や登録だけを先に済ませておき、実際に動くかどうかは条件が明確になってから判断する、という進め方でも十分間に合います。条件面の交渉に力を入れているとされるファーマキャリアや、マッチング精度を重視する薬剤師ファゲットのように、性格の違うサービスに情報収集だけでも登録しておくと、いざというときの動き出しが早くなります。転職エージェントとのやり取りで違和感を覚えたときの見分け方はエージェントの見抜き方でも扱っているので、あわせて確認しておくと安心です。

よくある質問

Q. M&Aの噂を聞いただけで、まだ正式発表がありません。動いてもいいですか?

A. 噂の段階で焦って行動する必要はありませんが、情報収集や職務経歴の整理など、いつでも動ける準備を進めておくことは問題ありません。正式な発表を待たずに転職エージェントへの登録だけ先に済ませておく、という進め方をする人もいます。

Q. 会社側は、従業員をできるだけ辞めさせたくないと考えているのですか?

A. 一般的には、薬剤師の採用・育成にはコストと時間がかかるため、できる限り引き継ぎたいと考える会社が多いとされています。ただし店舗の統廃合が絡む場合、全員を同じ配置で維持できるとは限らず、最終的な判断は会社の戦略や個々の状況によって異なります。

Q. 説明会で聞いたことを、あとから「言った・言わない」にしないためにはどうすればいいですか?

A. 可能な範囲でメモを取り、重要な条件については書面やメールなど記録に残る形での確認を依頼するのがおすすめです。口頭の説明だけで済ませず、条件変更に関わる部分は記録を残す意識を持っておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。

まとめ

M&Aや事業譲渡の通知は、誰にとっても不意打ちのように感じられるものです。ただ、会社側にも一定の論理と手順があることを知っておくだけで、闇雲に不安がる必要は少なくなるはずです。備えがあれば、いざというときも慌てず一つずつ確認から動き出せます。落ち着いて情報を集め、必要なタイミングで動けるようにしておきましょう。

次の一歩のために(あわせて読みたい)

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※本記事は、調剤薬局業界で一般的に知られている傾向や、管理する立場として見聞きした一般的な内容をもとに整理したものです。運営者本人が自身の勤務先でM&A・事業譲渡・閉店を経験した事実に基づくものではありません。雇用契約の承継や労働条件の扱いに関する記述は一般的な整理であり、法的な断定ではありません。実際のケースについては、社会保険労務士・弁護士・労働基準監督署など専門家にご確認ください。