こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年になりました。

このサイトでは、これまで転職サービスの評判や転職の進め方をたくさん書いてきましたが、今回は少し毛色の違う記事です。2年前の、私自身の転職活動の話を書きます。

先に結末を言ってしまうと、私は転職していません。エージェントに登録し、面接に行き、内定をもらい、給与交渉までして——最後に辞退して、現職に残りました。「なんだ、転職しなかったのか」と思われるかもしれません。でも、この「転職しなかった転職活動」から学んだことが、いま私が転職の記事を書くときの土台になっています。成功談でも失敗談でもない、等身大の記録として読んでもらえたらうれしいです。

転職を考えたきっかけ——爆発ではなく、じわじわ型

よく「転職のきっかけは何ですか」と聞かれますが、私の場合、決定的な一発があったわけではありません。小さな不満が、静かに積み重なっていくタイプでした。

一つひとつは「まあ、仕事だから」と飲み込めるものです。でも、ある時ふと気づきました。飲み込んだ数を、自分がちゃんと覚えているんですよね。覚えているうちは、消化できていないということです。「辞めたい」と口に出したことは一度もありませんでしたが、「他の場所を見てみたい」という気持ちは、もう無視できない大きさになっていました。

いま思えば、このときの私は「薬剤師を辞めたいと思ったら」で書いた分類でいう「心身はまだ大丈夫。でも、もう嫌だという気持ちが強い」の状態でした。だから、勢いで辞表を出すのではなく、まず情報を集めることにしたんです。

大手2社に登録——リクナビ薬剤師とマイナビ薬剤師

登録したのはリクナビ薬剤師マイナビ薬剤師の2社。選んだ理由は、正直に言えば「大手だったから」です。当時の私はいまほど転職サービスに詳しくなく、「知っている名前なら大きく外さないだろう」という、ごく普通の選び方でした。

登録すると、すぐに電話が鳴ります。本当にすぐです。そこから30分ほど、希望条件や現在の状況のヒアリング。働きながらの身としては「もう掛かってきたか」と少したじろぎましたが、いま思えばこの初回電話が一番大事な工程で、ここで伝えた条件がその後の紹介の質を決めます。これから登録する方は、譲れない条件(私なら年収と通勤時間)を先にメモしてから電話に出ることをおすすめします。

2社のその後は、対照的でした。リクナビ薬剤師は、私の希望に合う案件がそのとき手元になかったようで、初回の電話以降は自然と縁が薄くなりました。マイナビ薬剤師は最初の対応の印象が良く、紹介も続いたので、途中からはマイナビ一本に絞って進めることになりました。

ここで一つ学びを。2社に登録したからこそ「対応と案件の差」が見えて、どちらに乗るかを自分で選べました。1社だけだったら、それが普通だと思い込んでいたはずです。転職サイトの選び方の記事で「タイプの違う2〜3社の併用が定石」と書いているのは、この実体験から来ています。

紹介された求人の現実——全部、年収が下がる

そして、ここからが現実の話です。紹介される求人は、条件面をよく見るとどれも現職より年収が下がるものばかりでした。

これは、エージェントが悪いわけではありません。私は当時すでに係長職で、複数店舗の管理まで含めた給与をもらっていました。年収700万円のロードマップで書いたとおり、薬剤師の年収はポジションと責任で積み上がるものです。転職して一般薬剤師からやり直すなら、下がるのはむしろ当然。「役職ごと持って移れる転職」は、そう簡単には転がっていない——これが、求人票の束から突きつけられた現実でした。

もしあなたがいま管理職で「転職で年収を上げたい」と考えているなら、この壁は先に知っておいてください。逆に一般薬剤師の方なら、伸びしろがあるぶん話は変わってきます。自分の立ち位置によって、転職市場の見え方はまったく違います。

面接、そして内定——「いい会社」に出会ってしまった

最終的に面接に進んだのは1社だけです。数を打つより、条件と雰囲気が一番マシだった1社にちゃんと向き合うことにしました。

結論から言うと、いい会社でした。面接で社長と直接話す機会があり、その人柄に率直に惹かれました。「ここで働きたい」と思ったのは本心です。ポジションは一般薬剤師からのスタートで、将来の管理薬剤師候補としてという前提の内定を、ほどなくいただきました。

ただ、提示された年収は550万円。私の希望を伝えて交渉してもらい、590万円まで上げてもらえました。40万円の上積みは、先方の誠意だったと思います。それでも——現職より100万円近く低い。ここで私は立ち止まりました。

天秤にかけて、辞退を決めた

片方の皿には「人柄のいい社長、働きたいと思える環境、新しい場所でのやり直し」。もう片方の皿には「年収約100万円の差、積み上げてきた役職と信頼、家族の生活設計」。

何日か考えて、辞退を決めました。決め手は単純で、年収100万円の差は、気持ちだけでは埋まらないからです。月にならせば8万円強。住宅や教育のことを考えると、「いい会社だから」で飲み込める額ではありませんでした。もし差が2〜30万円なら、違う決断をしていたかもしれません。

ここでの学びはこうです。「行きたい気持ち」と「行っていい条件」は、別々に評価すること。面接で人柄に触れると、気持ちの皿だけがどんどん重くなります。だからこそ、活動を始める前に「年収がいくらを下回ったら見送る」という線を書き出しておく。私はこの線があったから、後悔なく辞退できました。

エージェントとの摩擦——「押し」に流されそうになった話

正直に書いておきたいのが、エージェントとのやり取りで感じた違和感です。

面接に進む前、担当者からは「ここから先はもう引き返せないので、絶対に面接に行ってください」という言い方をされました。辞退をお願いしたときには「辞退するとこの案件にはもう再応募できませんよ」と念を押されました。事実の説明と言えばそうなのですが、受け取る側としては、軽く脅されているような圧を感じたのを覚えています。このやり取りで、正直、転職活動への熱が少し冷めました。

誤解のないように書くと、これは担当者個人の対応の話で、マイナビ薬剤師というサービス全体がそうだという意味ではありません。書類も面接調整も交渉も、実務はしっかりやってくれました。ただ、構造として知っておいてほしいのです。エージェントは味方であると同時に、成約して初めて報酬が入るビジネスでもある。だから、クロージングの局面では押しが強くなることがある。それ自体は責められませんが、流されるかどうかは自分の側の問題です。

面接に行くかどうかも、辞退するかどうかも、決めるのはあなたです。断るのは正当な権利ですし、担当者が合わなければ変更も、利用をやめることもできます。エージェントとの距離感に悩んだら、転職エージェントが信用できないと感じたときの記事も読んでみてください。

残ってわかったこと——転職活動は「現職の値段」も教えてくれる

辞退して現職に残り、2年が経ちました。この転職活動で得た一番大きなものは、意外なことに「現職が自分をどれだけ高く評価してくれているか」が分かったことです。

転職市場に出てみて初めて、自分の年収が市場水準よりかなり高い位置にあること、それは積み上げてきた役職と信頼の対価であることが、数字で分かりました。これは求人票の束と内定条件という「外の物差し」を当てなければ、一生分からなかったことです。

私の好きな言葉に、リベ大の両学長の「転職にはリスクがあるが、転職活動にはリスクがない」という考え方があります。まさにその通りで、活動して、比べて、結果を見てから「残る」を選ぶのは、逃げでも失敗でもなく、いちばん確度の高い意思決定です。私は転職しませんでしたが、転職活動をしたことは一度も後悔していません。

そして、これも正直に書いておきます。辞めたい気持ちが完全に消えたわけではありません。通勤は今も長いし、納得できないことも起きます。それでも「いつでも動ける、比べたうえで今を選んでいる」という感覚があるだけで、同じ職場の景色が少し違って見えるんです。我慢して残っているのと、選んで残っているのとでは、心の消耗がまるで違います。

この経験から、いま悩んでいるあなたに伝えたいこと

転職するにしても、しないにしても、あなたが「自分で選んだ」と思える着地になりますように。私の遠回りの記録が、その参考になればうれしいです。

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※本記事は運営者個人の体験に基づくものです。エージェントの対応は担当者や時期により異なります。サービス内容の最新情報は各公式サイトでご確認ください。