こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年、自分自身も2年前に転職活動を経験しました(最終的には現職に踏みとどまっています)。
この記事のテーマに関して、もうひとつ立場をお伝えしておきます。私はいま、個人在宅——患者さんのご自宅に伺う訪問薬剤管理——を実際に担当しています。新規在宅の立ち上げ、つまり最初の契約手続きも自分の手でやりました。同時に、係長として中途採用の面接に入ることもあるので、「在宅経験のある応募者を評価する側」の目線も持っています。
在宅医療は、これからの薬剤師にとって確実に大きくなっていく領域です。ところが、実際に働く側から見た情報は驚くほど少なく、「やりがいがある」というきれいな話か、「きつい」という断片的な声か、どちらかに偏りがちです。この記事では、実際にやっている人間として、仕事内容から向き不向き、そして転職市場で在宅経験がどう評価されるかまで、働く側と採用する側の両方の目線で書いていきます。
在宅医療の薬剤師は何をするのか——外来との一番の違い
まず仕事内容を簡単に整理します。在宅医療での薬剤師の役割は、医師の指示にもとづいて患者さんの生活の場に薬剤師が出向き、薬物療法を支えることです。大きく分けると、高齢者施設などをまとめて訪問する「施設在宅」と、患者さん個人のお宅に伺う「個人在宅」があります。私が担当しているのは後者、個人在宅です。
訪問先でやることは、薬のお届けとセット、残薬の確認と整理、服薬状況や体調の聞き取り、薬の保管状況のチェック、飲みにくさがあれば一包化や剤形変更の提案など。訪問後は、医師やケアマネジャーに状況を報告して、次の処方につなげていきます。書くと地味ですが、この一つひとつが「処方箋どおりに渡して終わり」の外来とはまったく違う仕事です。
「生活の場に入る」からこそ見えるもの
外来と在宅の一番の違いは、患者さんが薬局に来るのではなく、こちらが患者さんの生活の場に入ることです。
個人のお宅に上がると、その方の生活が肌で分かります。薬がどこに置かれているか、カレンダーに何が書いてあるか、台所がどんな様子か。外来の投薬カウンターでは絶対に見えない「生活感」が、そこにはあります。「飲み忘れが多いんですよね」という一言の背景に何があるのか、生活の場に立つと具体的に見えてくる。これは、実際に個人宅へ通っている私の実感です。
感謝を「実感」できる仕事
もうひとつ、私が在宅を続けていて感じるのは、外来よりも「感謝される」実感をはるかに強く体感できることです。
外来でもお礼の言葉をいただくことはあります。ただ在宅は、こちらの訪問を待っていてくださる方のところへ、薬と一緒に伺う仕事です。関係の深さが違うぶん、返ってくる言葉の重みも違います。薬剤師としてのやりがいをどこに感じるかは人それぞれですが、「患者さんの役に立てている手応えがほしい」という人にとって、在宅は間違いなく魅力のある働き方です。
きれいごと抜きのリアル
とはいえ、いいことばかり書くつもりはありません。実際にやっているからこそ言える注意点を、正直に挙げます。
ひとりで他人の家に入る、という安全面の現実
個人在宅は、基本的にひとりで患者さんのお宅に上がる仕事です。ほとんどの訪問は何ごともなく終わりますが、正直に言えば、女性がひとりで訪問するのは危ないと感じる場面も現実にあり得ます。訪問先の家庭環境はさまざまですから、防犯面の配慮が必要な場合があることは、これから在宅を始める方に知っておいてほしい点です。
だからこそ、2026年の改定で、他の従業員を同伴する複数名での訪問が評価(加算)されるようになったのだと私は受け止めています。制度が「ひとりで抱え込まない訪問体制」を後押しする方向に動いた、ということです。在宅のある職場を選ぶときは、こうした体制面まで確認する価値があります。
患者さんの受診サイクルを「自分ごと」として回す重さ
外来の仕事は、処方箋が来てから始まります。言ってしまえば、受け身でも成立する仕事です。
在宅はそうはいきません。次の往診がいつで、処方がいつ出て、手元の薬がいつ切れるのか。そのサイクル全体を薬剤師が自分ごととして把握し、逆算して動く必要があります。薬が切れる前に届くように段取りを組み、ずれが出そうなら医師やケアマネジャーと調整する。この「患者さんの療養スケジュールを自分で管理する当事者意識」が、在宅の仕事のいちばんの重さであり、同時にいちばんの専門性だと思います。
2026年の改定で「複数名訪問」と「往診同行」が評価されるようになった
制度の話をひとつだけ。2026年の改定で、複数名での訪問に加えて、医師の往診に薬剤師が同行することも評価(加算)されるようになりました。安全面の後押しと、医師と薬剤師がその場で連携する在宅医療の推進、どちらの意味でも、現場の実態に制度が追いついてきた改定だと感じています。
なお、加算の名称や点数といった細かい部分はここでは踏み込みません。制度は変わっていくものなので、最新の詳細は勤務先や公的資料で確認してください。この記事で押さえてほしいのは、「在宅の経験、とくに往診同行の経験は、制度上も評価される時代になった」という流れです。
向いている人・向いていない人
私の実感として、在宅の向き不向きははっきり分かれます。
先にはっきり書くと、向いていないのは「患者さんの受診タイミングを自分で把握できない人」です。前の章で書いたとおり、在宅は処方箋を待つ仕事ではなく、患者さんの受診と処方のサイクル全体を自分で管理する仕事です。「処方箋が来たら正確に対応する」ことは得意でも、「次にこの患者さんがいつ受診して、いつ薬が必要になるか」を自分から追いかけるのが苦手な人には、正直つらい働き方だと思います。
逆に、向いているのはこんな人です。
- 患者さんごとのスケジュールを自分で組み立て、段取りを管理するのが苦にならない人
- 薬そのものだけでなく、患者さんの生活まで見たい人
- 医師・看護師・ケアマネジャーなど、他職種とのやり取りを面倒がらない人
- 「ありがとう」を直接受け取れることをやりがいにできる人
誤解のないように付け加えると、外来型の働き方が劣っているという話ではありません。正確さとスピードで外来をさばく力も立派な専門性です。ただ、求められる力の種類が違う。そこを見誤って転職すると、お互いに不幸になります。
在宅の仕事はどこから来るのか——「やりたくてもできない店舗」がある
在宅を検討するうえで、意外と知られていない現実をお伝えします。在宅案件を持っていない店舗は、実際にあります。「在宅をやりたい」と思っても、勤務先に案件がなければ経験は積めないのです。
では、在宅の仕事はどこから生まれるのか。私の経験上、ルートは大きく3つです。
- 薬局側から自分で取りに行く——地域の医療機関や関係機関に働きかけて、新規の在宅契約を獲得する
- 往診している病院・クリニックからの依頼——在宅医療を手がける医師から「薬の管理をお願いしたい」と声がかかる
- 患者さんのご家族からの依頼——「通院が難しくなった」「薬の管理が心配」という相談から始まる
このうち①では、地域包括支援センターに自分から働きかけて案件を獲得しにいく、という動き方もあります。私自身、最初の契約は自分で手続きから立ち上げました。待っていれば在宅が降ってくるわけではなく、誰かが取りに行って初めて生まれる仕事なのだと、身をもって知っています。
ここから導かれる結論はシンプルです。在宅の経験を積みたいなら、在宅案件が実際に動いている職場に身を置くしかない。社内異動で叶うなら理想ですが、そもそも会社として在宅に力を入れていなければ、異動先にも案件はありません。在宅経験を目的にした転職が、現実的な選択肢になる理由がここにあります。職場選び全般の考え方は調剤薬局のいい職場の見分け方ガイドで整理しているので、あわせて読んでみてください。
転職市場で「在宅経験」はどう評価されるか——採用する側の本音
ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。「在宅経験あり」の中身は、転職市場では一枚岩ではありません。
エージェントの評価——「往診同行までしていれば申し分ない」
私が2年前に転職活動をしたとき、エージェントとのやり取りで印象に残っていることがあります。在宅の経験の話になったとき、往診同行までしていれば申し分ない、経験としてさらに上積みするなら往診同行——というニュアンスの評価をされたのです。転職市場でも、往診同行は在宅経験の確かな上積みとして扱われている、というのが私の実感です。2026年の改定で往診同行そのものが評価されるようになった今、この経験の価値はさらに上がっていると私は見ています。
「在宅経験あり」の中身で、評価は分かれる
採用する側の目線も合わせると、ひとくちに「在宅経験」と言っても、その中身で受け取られ方が変わります。
| 経験のレベル | 中身 | 評価 |
|---|---|---|
| 訪問経験 | 決まった患者さんへの訪問業務をこなした | 在宅経験の入口 |
| 契約立ち上げ経験 | 新規在宅の契約をゼロから自分で立ち上げた | 採用側が重視する、一段上の経験 |
| 往診同行経験 | 医師の往診に同行した | あれば申し分ない、確かな上積み |
面接する側として正直に言うと、「在宅をやったことがあります」という応募者に私が知りたいのは、「最初の契約をしたことがあるか」です。すでに動いている在宅の訪問をこなした経験と、ゼロから契約を立ち上げた経験は、まったくの別物です。後者は、医師やケアマネジャーとの関係づくり、手続き、患者さんへの説明まで、在宅という仕事の全体像を知っていることを意味するからです。
契約経験があるなら、自分から必ずアピールする
ここで求職者側に大事な話をひとつ。私が転職活動をしたとき、担当のエージェントは「契約の経験があるか」までは聞いてきませんでした。在宅の現場感覚に即した深さで経歴を聞き取れるエージェントは、実際にはそう多くないのだと思います。
だからこそ、契約立ち上げや往診同行の経験があるなら、聞かれるのを待たず、自分から職務経歴書と面接で必ず伝えてください。「在宅経験あり」とだけ書くのと、「新規在宅の契約を自分で立ち上げた経験あり」と書くのとでは、採用側の受け取り方がまるで違います。伝え方の基本は薬剤師の転職面接ガイドにまとめています。
逆転の見極め術——「契約の経験は?」と聞いてくる会社は本気度が高い
そしてこの話は、そのまま会社選びにも使えます。面接で「在宅の契約をご自身でされた経験はありますか」と踏み込んで聞いてくる会社は、在宅の現場を分かっている、つまり在宅への本気度が高い会社です。逆に「在宅経験あり」の一言で満足する会社は、在宅を求人の飾りにしている可能性があります。面接は評価される場であると同時に、こちらが相手を見極める場でもあるのです。
未経験から在宅を始めるには
最後に、在宅未経験の方へ。未経験から始める道筋は、突き詰めると「在宅案件が実際に動いている職場に入り、訪問経験から積み上げる」ことに尽きます。前述のとおり、経験はまず訪問から始まり、契約立ち上げや往診同行へと広がっていくものなので、まず入口に立てる環境を選ぶことが第一歩です。
注意したいのは、求人票の「在宅あり」という一言だけでは実態が分からないことです。施設在宅が中心なのか個人在宅もあるのか、どのくらいの案件が動いているのか、ひとり訪問なのか複数名の体制があるのか、未経験者への同行指導はあるのか。このあたりは面接や見学で具体的に確認してください。答えが具体的な会社ほど、在宅が実際に回っている会社です。
転職サービスを使うなら、役割分担で考えるのがおすすめです。在宅医療に的を絞った支援を打ち出しているのがジョブサポ薬剤師で、在宅志望なら話を聞いてみる価値があります。そのうえで、求人の選択肢を広く確保するために大手を1社併用する、という組み合わせが現実的です。どのサービスをどう組み合わせるかは薬剤師転職サイトの比較・選び方で目的別に整理しています。
まとめ
要点を整理します。
- 在宅の一番の違いは「生活の場に入る」こと。生活感が見え、感謝を実感しやすい、やりがいの大きい仕事
- 一方で、ひとり訪問の安全面への配慮や、患者さんの受診サイクルを自分で管理する重さというリアルがある
- 2026年の改定で、複数名訪問と往診同行が評価(加算)されるようになった(詳細は勤務先・公的資料で確認を)
- 向いていないのは「受診タイミングを自分で把握できない人」。在宅は当事者意識で回す仕事
- 在宅案件のない店舗もある。経験を積みたいなら、案件が動いている職場を選ぶことが出発点
- 転職市場での評価は「在宅経験あり」の一言では決まらない。契約立ち上げや往診同行の経験があるなら、自分から必ずアピールする
- 面接で「契約の経験は?」と聞いてくる会社は、在宅への本気度が高い会社
在宅は、薬剤師が「薬の専門家」から一歩踏み出して、患者さんの生活そのものに関わっていける仕事です。楽な仕事だとは言いませんが、実際にやっている身として、外来だけでは得られない手応えがあることは保証します。この記事が、在宅という選択肢を考えるきっかけになればうれしいです。
次の一歩のために(あわせて読みたい)
- どのサービスを選ぶか迷ったら → 薬剤師転職サイトの選び方(目的別比較)
- 在宅医療に強い転職サービス → ジョブサポ薬剤師の評判
- 在宅と併用したい大手 → ファルマスタッフの評判/ファーマキャリアの評判
- 職場選び全般の考え方 → 調剤薬局のいい職場の見分け方
- 経験の伝え方 → 薬剤師の転職面接でよく聞かれる質問と答え方
- 年収の目安を知りたいなら → 薬剤師の年収相場まとめ
※本記事は運営者自身の在宅業務・採用面接の経験と、一般的な情報をもとに整理したものです。診療報酬・加算などの制度の詳細は改定により変わるため、最新情報は公的資料や勤務先でご確認ください。