こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年、自分自身も2年前に転職活動を経験しました(最終的には現職に踏みとどまっています)。

処方せんを前にして、何かが引っかかっている。番号は分かっている。受話器にも手はかかっている。それなのに、そこから先の数センチが、どうしても動かない。

「もう一回、薬歴を見てからにしよう」と言いながら、実は3回目を見ている。「今は混んでいる時間帯かもしれない」と、時計を見る理由を探している。本当は分かっているんです。確認したほうがいいということも、時間を置いても状況は変わらないということも。それでも動かない。この記事は、そういう時間を経験したことがある方に向けて書いています。

先に、いちばん伝えたいことを書きます。疑義照会が怖いという感覚は、あなたの性格が弱いからでも、勉強不足だからでも、薬剤師に向いていないからでもありません。怖くなるだけの構造が、この業務そのものに組み込まれているからです。そしてその構造は、かなりの部分まで分解して名前をつけることができます。

私は5店舗を管轄する立場として、疑義照会に苦手意識を持つスタッフから相談を受けることがあります。話を聞いていて毎回思うのは、本人が「自分の性格の問題」だと思い込んでいる部分の大半が、実は仕組みの問題だということです。この記事では、その仕分けをやったうえで、迷ったときの行動原則、電話の型、強い口調で返されたときの受け止め方、そして管理する側として「一人で抱えさせない」体制をどう作るかまでを整理します。

なお、この記事では「この処方は疑義照会すべき/すべきでない」という個別の臨床判断は一切扱いません。それは記事が決めていいことではないからです。扱うのは、判断そのものではなく、判断に至るまでの構造と、その先の動き方です。

怖さを4つの構造に分解する

「疑義照会が怖い」という一言は、実は複数の異なる怖さが束になったものです。束のままだと「自分はメンタルが弱い」という結論にしかたどり着きません。ほどいて、一つずつ見ていきます。

構造①:情報と立場が、そもそも対称ではない

疑義照会という業務は、「相手がすでに決めたこと」に対して、こちらから確認を入れるという形をしています。この形自体が、心理的には最初から負荷の高い設計です。

加えて、こちらの手元にある情報は、相手の手元にある情報と同じではありません。診察室で何が話され、どんな経過をたどって、どういう意図でその処方に至ったのか。そのすべてが処方せんに書かれているわけではない、というのは薬剤師なら誰でも知っていることです。「自分が知らない事情があるかもしれない」という可能性が常に残る状態で、それでも確認を入れなければならない。これは能力の問題ではなく、情報の持ち方が非対称だという構造の問題です。

ここに、医師と薬剤師という職種間の関係が重なります。制度上は対等な専門職同士のやり取りとされていますが、現場での体感がフラットかどうかは別の話で、「格上の相手に指摘している」という感覚が生じやすい構造はあると思います。若手ならなおさらです。この感覚を「気にしすぎ」と言い聞かせても消えないのは、気の持ちようの問題ではないからです。

構造②:時間的なプレッシャーが、判断と同時にかかっている

2つ目は、時間です。疑義照会が難しいのは、「考える」と「待たせる」が同時に進行する点にあります。

待合室では患者さんが待っている。後ろには次の処方せんが積まれている。電話をかければ、相手の医師も外来の合間かもしれない。じっくり考えれば考えるほど、待たせている人が増えていくという設計になっています。落ち着いて調べたいのに、落ち着けない要素が全方位から来る。これは個人の処理速度の問題ではなく、業務の置かれ方の問題です。

そしてもう一つ、忘れられがちな要素があります。医師の側にも、同じかそれ以上の時間的制約があるということです。外来の途中で電話を取れば、目の前の患者さんを待たせることになる。処置中かもしれない。相手が急いでいるように聞こえるのは、こちらを軽んじているからではなく、単純にその人も時間に追われているから、という場合がかなりあります。

この視点は、自分を守るためにも大事です。相手の反応の速さや素っ気なさを、こちらへの評価だと受け取ってしまうと、必要以上に傷つくことになるからです。多くの場合、それは評価ではなく状況です。

構造③:判断が、一人のところで止まっている

3つ目が、私が管理する側としていちばん構造的だと思っている部分です。

疑義照会でつらいのは、電話そのものより「これは照会に値するのか」を判断する瞬間だという声をよく聞きます。そしてその判断が、多くの現場で気づいた人一人の中で完結する形になっている。これが重い。

考えてみると、これは不思議な話です。調剤には監査があり、複数の目を通す仕組みが当たり前に組まれています。ところが「気づいた違和感を照会に上げるかどうか」という、同じかそれ以上に判断の要る場面については、ダブルチェックの仕組みが用意されていない店舗が少なくありません。結果として、若手が一人で背負い込むことになります。

ここははっきり書いておきます。これは本人の自信のなさではなく、店舗の運用の問題です。判断を一人に閉じ込める運用になっているなら、誰がその位置に立っても同じように重い。あなたが特別に頼りないから重いのではありません。

構造④:一度の経験が、記憶として残り続ける

4つ目は、過去の蓄積です。強い口調で返された経験がある方は、それ以降その医療機関の名前を見ただけで身構えるようになったのではないでしょうか。あるいは、特定の相手だけ電話が極端にしんどい、という形で残っているかもしれません。

これも、性格の問題として片付けられがちなところです。でも、不快だった経験を強く記憶して次から回避しようとするのは、人間として自然な反応だとされています。むしろ、そう反応しない方が例外です。「いつまでも引きずって」と自分を責める必要はありません。

厄介なのは、この記憶が実際より大きく育ちやすいことです。一人で反芻していると、言われた言葉の強さも、相手の不機嫌さも、記憶の中で少しずつ増幅していきます。これは調剤過誤のあとに起きる反芻とよく似た性質で、その仕組みについては調剤過誤を起こしてしまったらでも書きました。共通しているのは、一人で抱えている限り記憶は悪い方に育つという点です。

4つを並べてみると

ここまでの4つを、「それは誰の問題か」という軸で整理します。

怖さの正体これは誰の問題か打てる手の方向
相手がすでに決めたことに確認を入れる形/情報の非対称業務そのものの構造。個人の資質とは関係がない形式を型として身につけて、毎回ゼロから考えないようにする
考える時間と待たせる時間が同時に進む業務の置かれ方の問題。相手側にも同じ制約がある電話前に手元を揃えて、通話時間そのものを短くする
判断が気づいた一人の中で完結している店舗の運用の問題。管理側が変えられる部分相談してから動く経路を、あらかじめ作っておく
過去の強い反応が記憶として残っている人として自然な反応。抱え込みで増幅する言語化して共有する。店舗の情報として扱う

こうして並べると分かるのですが、4つのうち、あなたの人格に起因しているものは一つもありません。業務の構造か、店舗の運用か、人間として自然な反応か、のいずれかです。だから「自分がダメだから怖い」という説明は、そもそも事実と合っていません。

もう一つ、位置づけを変えておきたいこと

構造の話に加えて、この電話をどう位置づけるかも、負荷にかなり影響します。

疑義照会が怖い人の頭の中では、多くの場合、あの電話が「医師の判断に、薬剤師が異を唱える行為」として置かれています。この位置づけのままだと、電話は毎回「戦い」になります。戦いを一日に何度もやれと言われたら、消耗しないほうがおかしいです。

でも、実際に起きていることは違います。一般論医師は診察室という場で、その医療機関にある情報をもとに判断をしています。一方で薬剤師の手元には、医師のところには届いていない情報が入ってくることがある——他院の処方、市販薬やサプリメントの使用、窓口での何気ない一言、前回からの変化。この非対称は、どちらが優れているという話ではなく、単に見ている場所が違うというだけのことです。

そう考えると、あの電話の性格は「異議申し立て」というより「情報のすり合わせ」に近いはずです。片方にしかない情報を突き合わせて、必要なら処方医に判断し直してもらう。対立の構図で捉えるより、そのほうが実態に合っていると思います。

もちろん、位置づけを変えただけで恐怖が消えるわけではありませんし、「気の持ちようで乗り切れ」と言いたいわけでもありません。前章で書いたとおり、怖さの多くは構造から来ていて、そこは一人で背負うものではないからです。相談してから動く、誰かに代わってもらう、という選択肢は常にあります。

そのうえで、「自分は今、戦いを挑もうとしているのではなく、情報をすり合わせようとしているだけだ」と一度言い直してみると、受話器を持ち上げる手が少し軽くなることがあります。この後は、行動原則と電話の型という具体的な話に進みます。

「これは照会すべきか」で迷ったときの行動原則

ここからは動き方の話です。ただし冒頭で書いたとおり、個別の処方について照会すべきかどうかを、この記事が判断することはしません。それは薬歴・添付文書・院内や薬局の基準・患者さんの状況をすべて見られる人にしか決められないことだからです。ここで示すのは、判断そのものではなく判断に迷ったときにどう振る舞うかという行動原則です。

原則1:迷ったという事実そのものが、情報です

「迷っている自分が未熟だ」と感じている方は多いのですが、順番が逆です。迷いが生じたということは、何かが引っかかったということで、それを検知したのはあなたの専門性です。

大事なのは、その引っかかりを「気のせいだった」で消してしまわないことです。消せば記録にも残らず、誰の目にも触れず、次にも活きません。引っかかったなら、まず言葉にする。それだけで、一人で抱えている状態から半歩出られます。

原則2:「照会する/しない」の二択にしない

苦手意識が強い方ほど、この場でイエスかノーかを一人で決めなければならないと思い込んでいる傾向があります。でも実際には、間にいくつも段階があります。

4番目が、いちばん飛ばされやすくて、いちばん効きます。「聞くほどのことでもないかも」と思う段階で聞いてしまうのが、実は最短ルートです。管理する側から見ても、相談が上がってくること自体はまったく手間ではありません。むしろ、上がってこないまま処理された判断の方がずっと怖い。

原則3:迷ったまま抱えるのが、いちばん避けたい状態

照会するかしないかより、迷った状態のまま誰とも共有せずに時間が過ぎることが、いちばん避けたい形です。理由は3つあります。

時間が経つほど確認しにくくなること。一人で悩んでいる間、判断の材料は1ミリも増えないこと。そして、抱えている時間そのものが消耗になること。その日一日ずっと引きずるくらいなら、5分で相談したほうが、体力の使い方として合理的です。

ただし、ここで一つだけはっきりさせておくべき線があります。相談の結果として選べるのは「照会するか/もう少し調べるか/誰がかけるか」であって、「疑いが残ったまま調剤する」ではありません。薬剤師法では、処方せんに疑わしい点があるときは処方医に確認したうえで調剤する旨が定められているとされています。つまり、疑義が解消していない状態のまま出すという選択肢は、そもそも土俵に載っていません。

相談して「それは大丈夫だよ」と言われたときも、その一言で疑問が解消したのか、それとも解消しないまま流されそうになっているのかは、自分の中で区別してください。納得できていないなら、まだ引っかかっていると重ねて言っていい場面です。

まとめると、行動原則としてはこの一行に収まります。「引っかかったら、まず口に出す。そして、その先どう動くかを一人で決めない。」個別の処方をどう扱うかは、薬歴・添付文書・勤務先の基準を確認したうえで、判断に迷えば先輩や管理薬剤師に相談してください。そこが着地点です。

電話で話す順番の型

「勇気を出しましょう」で終わらせるつもりはないので、具体的な型を書きます。緊張する場面ほど、毎回ゼロから考えず、決まった順番に乗せてしまうのが有効です。以下は一般的なコミュニケーションの型で、勤務先や地域の慣行がある場合はそちらが優先です。

かける前に、手元に揃えておくもの

通話中に探し物が始まると、それだけで相手の時間を奪いますし、こちらも焦ります。電話前の30秒が、通話の1分を短くします。

話す順番は「名乗り → 特定 → 結論 → 根拠 → 復唱」

順番はこの5段階です。相手が最初に必要としているのは、あなたの謝罪ではなく「誰のどの処方の話か」という特定情報です。ここが早いほど、相手は状況を思い出しやすくなり、結果として通話が短く済みます。

  1. 名乗る。薬局名と、薬剤師であることと自分の氏名。「〇〇薬局の薬剤師の△△と申します。お忙しいところ失礼いたします。」——職種を名乗ると、取り次ぐ側が用件の性質を判断しやすくなります。
  2. 患者さんと処方を特定する。「本日〇時頃に受診された、〇〇様の処方せんの件でご確認をお願いしたいのですが、今お時間よろしいでしょうか。」——ここで時間の可否を先に聞くのが効きます。相手が今は無理なら、折り返しの段取りに切り替えられます。
  3. 用件の結論から言う。「〇〇の記載について、確認させていただきたい点がございます。」経緯から話し始めると相手が先を読めません。何についての電話かを先に置くのが基本形です。
  4. 根拠と、こちらの案を添える。「薬歴では前回まで〇〇でしたので、変更の意図を確認させていただきたく」「もし〇〇ということでしたら、こちらで〇〇の対応も可能です」——案を持って行くと、相手の判断が一手で済みます。ただし、案はあくまで確認のための材料であって、最終的な判断は処方医のものです。
  5. 返答を復唱して、その場で書き取る。「〇〇に変更、で承知いたしました」と声に出して確認する。ここまでやって一本が完了します。

言い回しで、負荷が変わるところ

細かいようですが、実際に効く部分です。

避けたい形置き換え理由
「すみません、あの、間違っていたら申し訳ないのですが……」から入る「確認させていただきたい点があります」過剰な前置きは通話時間を延ばし、こちらの緊張も増幅する。確認は業務であって、謝ることではない
「この処方、おかしくないですか」「〇〇について、意図をご確認させてください」指摘の形にすると相手も身構える。確認の形にすると、事情の説明が返ってきやすい
経緯を最初から順に説明する結論(何の確認か)を先に置く相手は外来の合間かもしれない。先が読める話し方は、相手の負担も下げる
返答を記憶にとどめるその場で復唱して書き取る「〇〇に変更、で承知しました」と復唱すると、相互の取り違えを防げる

もう一つ。相手が医師本人でない場合(受付や看護師の方が取り次ぐ場合など)も同じで、特定情報を先に、用件は短くが基本です。誰に伝わっても意味が変わらない形にしておくと、伝言のまま話が進んでも齟齬が起きにくくなります。

そのまま声に出せる形にしておく

型は分かっても、いざとなると言葉が出てこないものです。上の順番を、そのまま読み上げられる文にしておきます。丸暗記する必要はなく、電話の横にメモとして置いておくだけでも、最初の一言が出やすくなります。

取り次ぎをお願いするとき

「お忙しいところ恐れ入ります。〇〇薬局の薬剤師の△△と申します。本日そちらを受診された〇〇様の処方せんの件で、1点確認させていただきたいことがございます。処方元の先生にお取り次ぎいただくことは可能でしょうか。」

ここで「薬剤師の」と職種を名乗ると、取り次ぐ側が用件の性質を判断しやすくなります。「1点」と件数を伝えると、相手が所要時間を見積もれます。

本題を切り出すとき

「お忙しいところ失礼いたします。〇〇薬局の薬剤師の△△と申します。本日〇時ごろに処方せんをお持ちになった〇〇様の処方について、確認をお願いしたい点が1点ございます。今お時間よろしいでしょうか。」

「〇〇という点について、こちらで薬歴と手元の資料を確認したのですが判断がつきませんでした。処方の意図をご確認させていただけますでしょうか。」

「こちらで確認したのですが判断がつきませんでした」という一文は、入れておくと丸投げではないことが伝わります。実際、調べたうえで残った疑問なのですから、そう言って構いません。

回答をもらったあと(復唱)

「ありがとうございます。念のため確認させてください。〇〇については△△という取り扱いで、よろしいでしょうか。」

「承知しました。では△△の形で調剤いたします。お忙しいところありがとうございました。」

相手が忙しく、折り返しをお願いするとき

「承知しました。それでは、先生のお手すきの時間にご確認いただけますでしょうか。〇〇薬局の△△宛て、電話番号は〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇です。患者さんの状況は(現在の状況)ですので、〇時頃までにご連絡いただけると助かります。」

折り返しのときは、患者さんの状況を一緒に伝えるのがコツです。いつまでに回答が必要なのかが分かると、相手も優先順位をつけられます。「至急でお願いします」と言うより、事実を伝えるほうが結果的に早く戻ってくることが多いです。

なお、回答を待つあいだ患者さんに待合でお待ちいただくのか、いったんお帰りいただくのかは、この記事が決められることではありません。薬剤の性質、緊急性、患者さんの状態、そして勤務先の規定によって変わります。ここは自己判断で決めず、上長・管理薬剤師に確認してください。

それでも手が動かないときの、最後の一手

「一人でかけなければいけない」というルールは、多くの場合どこにも書かれていません。先輩に横についてもらう。最初の数回は代わってもらって、やり取りを聞かせてもらう。管理薬剤師から一度話を通してもらう。どれも検討していい選択肢です(誰が照会を行い、誰が記録を残すかは勤務先の規定によるので、そこは職場の運用に沿ってください)。

とくに新人・若手の方にお伝えしたいのは、いきなり一人で完遂することを目標にしなくていいということです。同席から始めて、名乗りだけ自分でやって、次は結論まで自分で言う。その刻み方で構いません。1年目・2年目のしんどさ全般については新人薬剤師がつらいと感じるときにもまとめています。

強い口調で返されたときの、受け止め方

ここは丁寧に書きます。実際に強い反応が返ってきた経験は、簡単に消えるものではないからです。

まず、「内容への否定」と「態度の強さ」を分ける

強い口調で返されたとき、頭の中では「自分の確認は的外れだった」と「相手が不機嫌だった」が一つに溶け合ってしまいます。でも、この2つは本来まったく別のものです。

照会の内容として妥当だったかどうかは、あとから薬歴と資料をもとに、先輩や管理薬剤師と一緒に振り返れば整理できます。相手の口調の強さは、その妥当性の判定材料ではありません。強く返されたから間違っていた、穏やかだったから正しかった、ということにはならない。ここを混ぜないだけで、引きずり方がかなり変わります。

相手の状況という要素を、外さない

これは相手をかばうためではなく、あなたが自分を過剰に責めないために必要な視点です。

電話が鳴ったとき、相手が何をしていたかは、こちらには見えません。外来の途中かもしれない、処置の合間かもしれない、その日何本目かの問い合わせかもしれない。相手も時間に追われた環境にいて、こちらの電話がその合間に入っているという可能性は、常にあります。素っ気なさや早口の理由が、そこにあることは珍しくありません。

ここで「医師とはそういうものだ」と一般化してしまうと、次の電話がもっと怖くなります。実際には丁寧に応じてくれる方も、こちらの確認を歓迎してくれる方も、たくさんいます。一度の強い反応から相手の職種全体を推定しない——これは、あなたの次の一本を軽くするための実務的な工夫でもあります。

そのうえで、理不尽なものは理不尽です

もちろん、状況で説明のつく範囲を超えた対応というものも、現実にはあると言われています。人格を否定するような言い方をされた、というケースまで「相手も忙しいから」で飲み込む必要はありません。

ただ、そのときも問題の置き場所は「あなたの資質」ではありません。置き場所は、そのやり取りそのものと、それを個人に処理させている体制の方です。だから次の一手も、自分を責めることではなく「共有する」になります。

口に出すと、記憶の育ち方が変わる

強い反応を受けた日は、必ずその日のうちに誰かに話してください。管理薬剤師でも、先輩でも、同期でも構いません。効果は2つあります。

1つ目は、記憶が増幅する前に輪郭が固定されること。口に出すと「思っていたより短いやり取りだった」と気づくことがよくあります。2つ目は、それが個人の体験から店舗の情報に変わること。同じ相手・同じ医療機関で似た経験をしている人がいるかもしれないし、店舗として伝え方を工夫する余地が見つかるかもしれません。話した瞬間から、それはあなた一人の問題ではなくなります。

もし、それを話せる相手が職場にいない、あるいは話しても「気にするな」で終わってしまうなら——その状況自体が、次の章で書く「体制の問題」に当たります。上司との関係そのものが苦しい場合は合わない上司との向き合い方も参考にしてみてください。

管理する側として、一人で抱えさせないためにできること

実体験ここからは、5店舗を管轄する立場から見た話です。個別の事例そのものを書くことはできませんが、疑義照会に苦手意識を持つスタッフの相談を受けることは、管理する側として珍しいことではありません。そのたびに感じるのは、本人の意識ではなく店舗の運用を変えたほうが早いケースがかなりあるということです。

この章は、管理薬剤師や薬局長、これから管理職を目指す方に向けた内容ですが、スタッフの立場で読んでいる方にも意味があります。ここに挙げる項目は、そのまま「自分の職場に何がないのか」を確認するリストにもなるからです。

①「相談してから電話していい」と、明言されているか

いちばん効くのに、いちばん抜けがちなのがこれです。多くの店舗では「相談してはいけない」とは誰も言っていません。ただ、「相談していい」とも言っていない。この空白が、若手を一人にします。

本人からすれば、忙しそうな先輩に声をかけるのは、それ自体が心理的なコストです。だから「迷ったら、かける前に必ず一声かけて」と、業務ルールとして明示してしまうのが確実です。判断してもらうためではなく、判断を一人に閉じ込めないための手続きとして置く。これだけで、構造③(判断の孤立)にかなり効きます。

②照会の内容と結果が、記録され共有されているか

疑義照会の記録は、多くの薬局で残されているはずですが、問題はそれが次の人に届く形になっているかです。

「この医療機関はこういう形で確認を入れると話が早い」「この件は以前も確認していて、こういう回答だった」——こうした蓄積が共有されていれば、次に同じ場面に立つ人の負荷は確実に下がります。逆に、個人の頭の中にしかない状態だと、店舗として毎回ゼロからやり直していることになります。

③新人に、段階的な経路が用意されているか

いきなり一人で完遂させるのではなく、同席 → 一部を担当 → 一人でかけて事後に共有、という段階を用意しておく。調剤や監査には当たり前に教育の段階が組まれているのに、疑義照会だけ「そのうち慣れる」で済まされている店舗は、実は少なくないと感じています。

ここが用意されていないと、新人は最初の1本を最大の緊張で迎えることになり、そこで強い反応に当たると、構造④(記憶の蓄積)が最初から重い形で始まってしまいます。教育の設計で防げる部分です。

④「照会しなかった判断」も相談できる空気があるか

見落とされがちな観点です。相談の経路が「照会します」という報告のためだけに存在していると、「引っかかったけれど、照会するほどではないと思った」という判断は、どこにも出てきません。

管理する側として本当に知りたいのは、むしろこちらです。引っかかりの段階で共有される状態を作れるかどうかが、店舗としての安全に効いてきます。「照会しなかった判断も、迷ったなら一言ください」と伝えておくだけで、上がってくる情報の質が変わります。

⑤管理職が見ているのは、件数より「相談が上がってくるか」

一般論疑義照会の件数を評価指標のように扱う話を耳にすることがありますが、件数そのものを目標にするのは、あまり筋がよくないと私は思っています。件数は、応需している処方の内容や医療機関との関係によって変わるもので、多ければ優秀という性質のものではありません。

管理する立場として実際に気にしているのは、「迷いが相談として上がってきているか」のほうです。相談がまったく上がってこない店舗は、迷いがない店舗ではなく、迷いが個人の中に沈んでいる店舗かもしれない。この見方は、インシデント報告の考え方と共通しています(調剤過誤を起こしてしまったらでも同じ趣旨のことを書きました)。管理職側の視点全般については管理薬剤師・管理職としてのキャリアにまとめてあります。

⑥体制そのものに、余白があるか

最後は、身も蓋もない話です。人が足りていない店舗では、①から⑤のすべてが機能しません。相談したくても全員が手を動かしていて声をかけられない、記録を共有する時間がない、新人に同席させる余裕がない。

疑義照会が個人の胆力の問題になってしまう店舗の多くは、実のところ体制に余白がないだけだったりします。ここは本人の努力では動かせない部分なので、管理する側が人員配置や時間帯の組み方から手を入れるしかありません。複数店舗を掛け持ちしている場合、この余白のなさはさらに厳しくなります(複数店舗の掛け持ちが抱えるリスク)。

疑義照会がしにくい職場は、環境要因として見てよい

ここまでを踏まえて、自分の職場を確認してみてください。当てはまる数が多いほど、あなたの苦手意識は、あなたの内側ではなく環境の側から来ている可能性が上がります。

ただし、いくつか当てはまったから今すぐ辞めるべきだ、という話ではありません。この記事で言いたいのは、そこまで短絡的なことではないです。

まず試してほしいのは、「これは自分の問題ではなく体制の問題かもしれない」という視点で、一度上長に相談してみることです。相談の仕方も、感情ではなく構造の話として持っていくほうが通りやすい。「怖いんです」より「迷ったときに相談できる経路がないので、決めておきたいです」のほうが、相手も動きやすくなります。

そのうえで、伝えても何も変わらない、あるいは伝えること自体が難しいのであれば、環境要因として転職の判断材料に入れてよい領域だと思います。環境が変われば同じ人が同じ業務を普通にこなせる、というのは現実にある話です。職場を見るときのポイントは良い薬局の見分け方、動くタイミングは薬剤師の転職を始めるタイミング、辞めたい気持ちの整理は薬剤師が「辞めたい」と思ったときの考え方に整理してあります。

なお、疑義照会の重さやスタイルは業態によっても変わります。病院薬剤師の場合、医師との距離感や相談のしやすさが調剤薬局とは異なると言われており、そのあたりは病院薬剤師のキャリアに、調剤薬局特有のしんどさ全般は調剤薬局を辞めたくなる理由にまとめています。

よくある質問

Q. そもそも、疑義照会はどこまでやる義務があるのですか。

A. 薬剤師法において、処方せん中に疑わしい点があるときは処方医に確認したうえで調剤する旨が定められているとされています。ここは記事の書きぶりに関係なく守るべき線で、「疑いが残ったまま調剤する」という選択肢はありません。ただし、条文の解釈や、目の前のケースが「疑わしい点」に当たるかどうかの当てはめについては、この記事で断定できる領域ではありません。実務上は、勤務先の基準と、判断に迷った場合の相談経路を確認しておくのが現実的です。そのうえで、確認そのものを一人で背負う必要はありません。義務があるのは「確認すること」であって、「一人で確認しきること」ではない——ここを分けて考えると、少し楽になるはずです。

Q. 照会した結果、「問題ありません」と言われました。無駄なことをしたのでしょうか。

A. 確認した結果、意図があって処方されていたと分かる——それは無駄ではなく、確認が完了したということです。事情が分かればその情報は薬歴に残り、次に同じ場面が来たときに店舗として判断しやすくなります。「何もなかった=かけるべきではなかった」ではありません。むしろ、そういうやり取りが積み重なることで、その医療機関とのやり取りの型が店舗に蓄積していきます。

Q. 特定の医療機関にだけ、どうしても電話しづらいです。

A. 中堅の方でもよく聞く話で、珍しいことではありません。まず、それを店舗内で口に出してみてください。同じ感覚を持っている人がいるかもしれませんし、その場合は個人の相性ではなく店舗として向き合う課題になります。そのうえで、店舗としてどう対応するか(誰が窓口になるか、伝え方をどう揃えるか)を決められると、負担がかなり分散します。一人で「自分だけが苦手なのだ」と思い込むのが、いちばん重い状態です。

Q. 忙しくて相談する時間もありません。

A. その状況自体が、本文で書いた「体制に余白がない」状態です。応急的には、確認したい点を一言のメモにして先輩に見せる(口頭で説明するより短く済みます)という手がありますが、根本的には人員配置の問題なので、上長に構造の話として伝えるのが本筋です。

Q. 電話中に頭が真っ白になって、うまく話せません。

A. 緊張する場面では誰にでも起こります。有効なのは、記憶に頼らず紙に書いたものを読む形にしてしまうことです。名乗り・患者さんの特定・確認したい点の3行だけでも、事前に書いておくと詰まりにくくなります。うまく話すことが目的ではなく、必要な情報が伝わって回答が得られれば、その電話は成功です。流暢さは評価対象ではありません。

Q. 「気にしすぎ」「慣れれば大丈夫」と言われるのがつらいです。

A. その言葉が効かないのは、本文で書いたとおり、原因が気の持ちようではなく構造の側にあるからです。「慣れ」で解決するよう見えるケースも、実際には型が身についたり、相談経路が見つかったり、その医療機関の勝手が分かったりと、具体的な条件が変わっているだけであることが多いです。慣れを待つより、条件のほうを変えていくほうが確実です。

Q. この記事を読んでも、やっぱり電話が怖いです。

A. それで構いません。構造が分かったからといって、緊張がゼロになるわけではないです。目指すところは「怖くなくなること」ではなく、「怖いままでも動ける形にしておくこと」だと思っています。型があること、相談できる相手がいること、一人でかけなくてよい選択肢があること。この3つが揃っていれば、怖さは残ったままでも業務は回ります。

まとめ

最後に、もう一度だけ書きます。

受話器の前で固まったことがある人は、たぶんあなたが思っているよりずっと多いです。そして固まる理由は、その人たちが気弱だからではなく、固まるようにできている場面に、一人で立たされているからです。

怖さそのものは、簡単には消えないかもしれません。それでも、「これは自分の欠陥ではなく、構造の問題だ」と分かるだけで、次の一本にかかる重さは確実に変わります。そして、その構造の一部は、あなた自身の工夫で、もう一部は店舗の運用で、変えられる部分です。どうか、全部を自分の資質の話にしないでください。

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※本記事は、調剤薬局業界で一般的に語られている考え方と、5店舗を管轄する管理職として現場の相談を受ける立場から見た一般的な傾向をもとに整理したものです。特定の医療機関・医師・患者さん・薬剤に関する個別の事例に基づくものではなく、運営者本人の特定の体験を記述したものでもありません。個別の処方について疑義照会を行うべきかどうかの判断は、薬歴・添付文書・勤務先および医療機関の基準等をふまえて行われるべきものであり、本記事が医学的・臨床的な判断を示すものではありません。判断に迷う場合は、必ず勤務先の先輩薬剤師・管理薬剤師にご相談ください。疑義照会の実施基準・記録の方法・連絡の手順は勤務先の規定によって異なるため、実務では勤務先の指示に従ってください。薬剤師法をはじめとする法令の解釈についても、本記事は法的な判断を示すものではありません。心身の不調が続く場合は、早めに医療機関にご相談ください。