こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年、自分自身も2年前に転職活動を経験しました(最終的には現職に踏みとどまっています)。

転職活動が進んで、いくつかの求人や内定の条件を並べる段階になると、どうしても「月給が高いほう」「年収が高いほう」に目が行きます。気持ちはよく分かります。

ただ、採用や査定をする側から見ると、求人票の額面はいくつかの部品を足した「合計」にすぎません。同じ年収でも、部品の組み立て方しだいで、賞与・昇給・退職金、そして残業したときにもらえる額まで変わってきます。

前回の退職金の記事では、「退職金の計算の基礎は、額面ではなく基本給であることが多い」という話を書きました。今回はその続きとして、退職金に限らず、求人票や内定の条件提示で、年収の「中身」をどう読むかを整理します。先に結論を書いておきます。

「額面が高い求人は怪しい」という話ではありません。内訳が分かれば、条件はちゃんと比べられる、という話です。

求人票の「月給」「年収」は、部品の足し算

求人票に「月給38万円」「想定年収500万〜600万円」とあっても、それは1つの数字ではありません。薬剤師の給与でよく見る部品と、それぞれで見ておきたい点を並べると、次のようになります。

部品見ておきたいこと
基本給給与の土台。賞与・退職金・昇給の計算の基礎になることが多い
薬剤師手当(資格手当)定額のことが多く、勤続年数で増えるとは限らない
管理薬剤師手当・役職手当その役割を外れると、なくなる
調整手当額面をそろえるための手当。昇給したときにどう扱われるか
住宅手当・地域手当・家族手当支給の条件と、条件が変わったとき(引っ越し・異動・結婚など)の扱い
通勤手当表示された月給に含まれているか、上限はあるか
固定残業代(みなし残業代)何時間分か。それを除いた月給はいくらか
賞与「何の何か月分」か。昨年の実績か、約束された額か

手当の名前や組み合わせは会社によって違います。上の表は、薬剤師の求人でよく見る例を並べたものです。

求人票や転職サイトでは、これらがまとめて「月給」「想定年収」として表示されていることがよくあります。合計の数字だけでは、どの部品がいくら入っているかは分かりません。

薬剤師の給与は「手当で額面を作る」形になりやすい

査定する側から見ると、薬剤師は基本給に手当を重ねて額面を作る給与体系になりやすい職種です。

理由は、会社側の事情を考えると分かりやすいと思います。薬剤師は採用が難しく、求人を出すときには他社に負けない額面を見せる必要があります。一方で、会社にとって基本給を上げることは、毎月の給与だけでなく、賞与や退職金、将来の昇給の土台まで一緒に上げることを意味します。手当なら、その手当だけを動かせば済みます。どちらが動かしやすいかは、想像がつくはずです。

私自身、査定する側にいて感じるのも同じことです。給与を上げるときは、薬剤師手当や役職手当を厚くする形が多く、基本給はあまり上げないようにしている印象があります。

これは「手当が多い会社はずるい」という話ではありません。そういう組み立てがよくある業界だからこそ、読む側が内訳を見る必要がある、ということです。

公的データでも「毎月の給与と賞与の配分」は会社の規模で違う

内訳の違いは、公的な統計にも表れています。厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」で、薬剤師(一般労働者)の毎月の所定内給与と年間賞与を、企業規模別に並べてみます。

企業規模所定内給与(月)年間賞与など月の何か月分か
全体40.7万円82.4万円約2.0か月
1,000人以上37.6万円97.9万円約2.6か月
100〜999人43.9万円70.1万円約1.6か月
10〜99人42.0万円67.8万円約1.6か月

出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」一般労働者 職種 第1表(薬剤師・男女計)。「全体」は企業規模計(10人以上)。「年間賞与など」は同調査の「年間賞与その他特別給与額」。「月の何か月分か」は、年間賞与などを所定内給与額で割って算出したものです。

大きい会社ほど「毎月はやや控えめで、賞与が厚め」、それより小さい会社は「毎月は厚めで、賞与は控えめ」という配分の違いが見えます。毎月の給与だけで比べると、大きい会社のほうが低く見えてしまうわけです。

ただし、平均年齢は1,000人以上が36.7歳、100〜999人と10〜99人がどちらも44.3歳と7歳以上違うので、同じ条件の人どうしを比べた数字ではありません。また、統計でいう「所定内給与」は、基本給だけでなく毎月決まって支払われる手当も含んだ額(残業代などは除く)です。統計の上でも、「月給」はあくまで基本給と手当の合計だという点は覚えておいてください。

基本給の大きさが効くところ、効かないところ

では、基本給の比率はどこに効いてくるのか。査定する側から見て、主に効いてくるのは賞与・退職金・昇給の3つです。一方で、よく誤解されますが、残業代には思ったほど効きません。順に見ていきます。

賞与——「◯か月分」は「何の◯か月分」か

求人票の賞与欄に「年2回・計4か月分(昨年実績)」とあったら、まず確かめたいのは、その「4か月分」が何を基準にしているかです。

賞与は、支払うかどうかも計算方法も、会社の規程で決まるものです。基本給を基準にする会社もあれば、基本給に一部の手当を足した額を基準にする会社もあります。基準が基本給20万円なら4か月分は80万円、月給40万円なら160万円。同じ「4か月分」でも、倍の差がつくことがあります。

私の身近な例でも、賞与は基本給を基準に計算され、手当は計算に入りません。そのため、「◯か月分」と聞くと大きく感じても、実際に振り込まれる賞与は普段の月給1回分とさほど変わらない、ということが起こります。手当の比率が高い給与ほど、この差は大きくなります。

もう一つ、「昨年実績」は約束ではありません。業績や個人の評価で上下するものなので、実績として書かれた数字は目安として見てください。

退職金——計算の基礎は基本給であることが多い

退職金も、基本給を計算の基礎にする会社が多い分野です。公的調査での勤続年数別の目安や、規程の見方は薬剤師の退職金はいくら?勤続年数別の相場と「基本給」の話に詳しく書いたので、ここでは「額面が同じでも、基本給が小さければ退職金も小さくなりやすい」という一点だけ押さえておいてください。

昇給——毎年の上がり幅は、どこに乗るか

昇給のしかたも会社によってさまざまですが、基本給の等級や号俸が上がる形で昇給する会社では、年数とともに増えていくのは基本給の部分です。定額の手当は、何年たっても同じ額のままということがよくあります。昇給が基本給に対する率で決まる会社なら、入社時の基本給が小さいほど、毎年上がる金額も小さくなります。

調整手当がある場合は、昇給したときの扱いも確認しておきたいところです。基本給が上がった分だけ調整手当を減らして、額面は変わらない——という決め方になっていないか。求人票からはまず読み取れないので、聞いて確かめるしかありません。

なお、昇給に関する事項は、労働契約を結ぶときに明示すべき項目の一つですが、書面でなくてもよいとされています。口頭で聞いた内容は、自分でメモを残しておきましょう。

残業代——「基本給が低いと残業代も安い」は、半分誤解

よく聞くのが「基本給が低いから、残業代も安くなる」という話です。これは半分誤解です。

法律上、残業代(割増賃金)の計算の基礎から外してよい賃金は、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)に限られています。しかも名前ではなく中身で判断され、たとえば全員に一律の額で出る「住宅手当」は、計算の基礎から外せません。

つまり、薬剤師手当や調整手当は、原則として残業代の計算の基礎に入ります。「基本給が小さい=残業の単価が小さい」とは限らないわけです。残業代について本当に注意したいのは、基本給の比率よりも、次の固定残業代のほうです。

固定残業代(みなし残業)がある求人の読み方

固定残業代とは、名前にかかわらず、一定時間分の残業代をあらかじめ定額で払う仕組みです。求人票では「固定残業代」「みなし残業」のほか、「◯◯手当(◯時間分の時間外手当として支給)」のような書き方で出てきます。

厚生労働省は、固定残業代の仕組みを採用する場合、求人票や募集要項に次の3点をすべて明示するよう求めています。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代の時間数と金額などの計算方法
  3. 固定残業時間を超えた残業・休日労働・深夜労働には、割増賃金を追加で支払うこと

この3点がそろっていない求人は、それだけで確認が必要です。

比べるときは「固定残業代を抜いた月給」に直す

固定残業代が入った求人と入っていない求人を、額面のまま比べてはいけません。前者の額面には「◯時間分の残業代」がすでに入っているからです。比べるときは、固定残業代を引いた「残業ゼロのときの月給」どうしで並べてください。

固定残業代そのものが悪いわけではない

固定残業代は、実際の残業が決められた時間より少なくても、定額で支払われるものです。残業が本当に少ない職場なら、その分はむしろ上乗せになります。

見るべきは、固定残業の時間数と、その店舗の実際の残業時間の関係です。実際の残業がいつも固定の時間を超えているのに、超えた分が払われていない——これは明らかにおかしな状態です。店舗の実際の残業時間の確かめ方は、調剤薬局のいい職場の見分け方で書いています。

「ずっともらえる額」と「条件つきの額」を分ける

住宅手当・地域手当・管理薬剤師手当

住宅手当は「賃貸住宅に住む世帯主」のように条件つきのことが多く、家を買ったり、家族の状況が変わったりすると対象外になることがあります。地域手当は勤務地に結びついていることが多く、異動で変わることがあります。管理薬剤師手当や役職手当は、その役割を外れればなくなります。

提示された額面にこうした手当が入っているなら、自分がその条件にこれからも当てはまり続けるかを考えてください。特に「入社してすぐ管理薬剤師を任される前提の額面」なのかどうかは、確認しておく価値があります。

また、2024年4月から、求人の段階でも労働契約を結ぶときも、「就業場所の変更の範囲」を明示することになりました。異動の範囲が広い会社なら、勤務地に結びついた手当が変わる可能性も頭に入れておきましょう。

試用期間中の給与

試用期間中は、本採用後と給与が違う会社もあります。厚生労働省は、試用期間の有無と内容を求人の段階で明示すること、そして試用期間中の労働条件が本採用後と違う場合は、それぞれを明示することを求めています。厚労省が示している求人票の記載例にも、「月給25万円(ただし、試用期間中は月給20万円)」という書き方が載っています。

試用期間が3か月で、その間の月給が数万円低ければ、1年目の年収はその分下がります。月給だけでなく、手当や賞与の扱いまで何が違うのかを確認しておきましょう。

入社1年目の賞与

賞与は、多くの会社で「この期間の勤務を評価して支給する」という対象期間が決まっています。途中で入社すると、最初の賞与は在籍した期間に応じて減ったり、少額になったりすることがあります。求人票の「年4か月分」を、入社1年目から丸ごともらえる前提で年収を計算していないかは要注意です。辞める側から見た賞与の段取りは、ボーナスをもらってから辞めるのはアリ?で書いています。

2つの内定を比べてみる(仮の例)

ここまでの話を、数字で確かめてみます。以下は説明のために作った仮の例で、実在の会社の条件ではありません。

項目A社B社
基本給28万円20万円
薬剤師手当7万円8万円
調整手当なし5万円
固定残業手当なし(残業代は実績で全額)5万円(20時間分)
月給(額面)35万円38万円
賞与基本給の3か月分=84万円基本給の3か月分=60万円
年収(残業代の追加なし)504万円516万円

仮の例です。月の所定労働時間を165時間と仮定しています。B社の固定残業手当5万円は、同じ仮定で計算した20時間分の残業代とちょうど見合う額にしてあります。

額面だけ見ると、B社のほうが月給で3万円、年収で12万円高く見えます。賞与もどちらも「3か月分」です。でも、中身を分けると見え方が変わります。

① 固定残業代を抜くと、月給はA社のほうが高い

B社の38万円には、20時間分の残業代5万円が入っています。抜くと33万円。残業ゼロのときの月給は、A社35万円・B社33万円で、A社が2万円上です。

② 残業が月4時間ほどあれば、年収は逆転する

A社の残業代は、基本給と薬剤師手当の合計35万円を165時間で割り、1.25倍した1時間あたり約2,650円です。B社は20時間までは固定残業代の範囲なので、20時間以内なら何時間残業しても年収は516万円のままです。

A社で残業が月4時間ほどあれば、残業代が年12万円を超えて、B社との差が埋まります。月10時間なら残業代は年約32万円で、A社は約536万円。B社を約20万円上回ります。逆に、残業がほぼない職場なら、年収はB社が12万円上です。

③ 賞与は同じ「3か月分」でも24万円違う

どちらも基本給が基準なので、A社84万円・B社60万円。「3か月分」という言葉は同じでも、毎年24万円の差になります。

④ 長く働くほど、基本給の差が効いてくる

基本給はA社28万円・B社20万円で、1.4倍の差があります。退職金や昇給が基本給を基準に決まる会社なら、この差は勤続年数とともに広がっていきます。B社の調整手当5万円が、昇給のときにどう扱われるかも確かめたいところです。

結局、どちらがいいのか

答えは「あなたの働き方しだい」です。残業がほとんどない店舗で、数年で次のステップに進むつもりなら、B社の額面の高さは素直にプラスです。ある程度の残業がある店舗で、長く腰を据えるつもりなら、A社のほうが有利になりやすい。

大事なのは、額面の12万円で決めるのではなく、自分の残業の見込みと、何年働くつもりかを当てはめて比べることです。そのために必要なのが、次の内訳の確認です。

求人票・労働条件通知書で見る項目チェックリスト

求人票は、あくまで募集の段階の情報です。内定が出て労働契約を結ぶときには、会社は労働基準法にもとづいて労働条件を明示する必要があり、賃金や労働時間などの重要な条件は、労働条件通知書などの書面で示すことになっています。賞与や退職金も、制度があるなら明示の対象です。

また、面接などの過程で、最初に示した労働条件が変わる場合は、その変更内容を明示しなければならないことになっています。求人票と、内定時に受け取る書面を並べて、次の項目を確認してください。

労働条件通知書は、署名や返送をする前に、求人票と1行ずつ突き合わせるのがおすすめです。食い違いがあれば、入社前に確認するのがいちばん角が立ちません。

面接・エージェント経由での聞き方

「給与の内訳を細かく聞いたら、お金のことばかり気にしている人だと思われないか」と心配になる方もいると思います。採用する側から見ると、内定の前後に条件を確認するのは自然なことです。気をつけたいのはタイミングで、面接の早い段階から給与の話ばかりになるのは避けて、条件提示の場や内定後の面談で確認するのが無難です。

聞き方の例(条件提示・内定後)

「ご提示いただいた月給の内訳を確認させてください。基本給と各手当の金額、固定残業代が含まれているかどうかを教えていただけますか。あわせて、賞与の計算の基準が基本給かどうかも伺えればと思います。」

年収交渉では「どこが上がったか」も確認する

条件交渉で額面が上がったら、上がった分が基本給なのか、手当なのかも確認しておきましょう。先ほど書いたとおり、会社にとっては手当で調整するほうが動かしやすいので、増額分が手当で返ってくることも考えられます。それ自体は悪いことではありませんが、賞与や昇給に効きやすいのは基本給の部分です。

交渉後の確認の例

「ご調整いただきありがとうございます。今回の増額分は、基本給と手当のどちらに反映される形でしょうか。」

聞きにくいことは、エージェントに頼む

転職エージェントを使っているなら、内訳の確認は担当者経由で頼めます。項目をはっきり伝えると、答えも具体的に返ってきやすくなります。

エージェントへの頼み方の例

「この求人の給与について、①基本給と各手当の内訳、②固定残業代の有無と時間数、③賞与の計算の基準と昨年の実績、④試用期間中の給与、⑤昇給のしかた、を先方に確認していただけますか。」

面接全体の考え方は採用する側が本当に見ているところに、年収交渉のタイミングは薬剤師の転職よくある質問Q&A集にもまとめています。

まとめ

額面の数字は、比べやすいぶん、それだけで決めてしまいがちです。でも、内訳を1枚の紙に書き出してみると、「どちらが自分にとって得か」は意外とはっきりします。手元にある求人票や条件提示を、一度この記事のチェックリストと並べてみてください。


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※本記事は、厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」の公表データ、厚生労働省・労働局の公表資料(固定残業代の表示、募集時等に明示すべき労働条件、労働条件の明示、割増賃金の基礎となる賃金)と、運営者の管理職としての経験をもとに整理したものです。A社・B社の数字は説明のための仮の例です。給与の計算方法・賞与・昇給・退職金の扱いは会社ごとの就業規則・賃金規程により異なります。法制度の取り扱いは、最新の公式情報をご確認ください。