こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年、自分自身も2年前に転職活動を経験しました(最終的には現職に踏みとどまっています)。

転職や退職を考え始めると、どこかで一度は頭をよぎるのが退職金です。「今辞めたら、退職金はいくら出るんだろう」「あと1年いれば増えるのかな」「転職先の退職金って、求人票のどこを見ればいいの?」——こうした疑問を持って検索している方に向けて、この記事を書いています。

ネットでよく見る「退職金の相場」の大きな数字は、多くが定年まで勤め上げた場合の話です。20〜40代で本当に知りたいのは、「勤続3年や5年や10年で辞めたら、実際いくらなのか」のほうだと思います。

私は採用面接や査定、退職の承認をする側の立場にいます。その立場から見ると、退職金の話にはネットの相場記事ではあまり触れられない大事なポイントが2つあります。先に結論を書いておきます。

この記事は「退職金のために我慢して残りましょう」という話ではありません。仕組みを知ったうえで、辞める時期と転職先の制度を、自分で判断できるようになることがゴールです。

勤続年数別の退職金相場——公的データで見る「途中で辞めた場合」

まずは金額の目安からです。薬剤師だけに絞った公的な退職金統計は見当たらないため、ここでは東京都が毎年行っている「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」を使います。都内の従業員10〜299人の中小企業を対象にした調査で、調剤薬局の多くが当てはまる規模感です。

この調査の「モデル退職金」は、学校を卒業してすぐに入社し、その会社で勤め続けた場合を想定した金額です。実際に支払われた平均額ではなく、各社の規程から出した「想定値」だと思って見てください。

中小企業のモデル退職金(大学卒・自己都合退職)

勤続年数自己都合退職の退職金賃金の何か月分か
3年21.5万円0.9か月
5年43.2万円1.7か月
10年112.5万円3.9か月
15年209.3万円6.6か月
20年346.8万円9.8か月
30年750.7万円17.8か月
定年(参考)1,149.5万円24.9か月

出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」第8表 モデル退職金(調査産業計・大学卒)。「賃金の何か月分か」は、同調査のモデル所定時間内賃金に対する月数。定年のみ会社都合退職の欄の数値です(定年退職は自己都合の区分に入らないため)。

勤続3年や5年では、退職金は数十万円にとどまります。「退職金=何百万円」というイメージだと、ここで大きくズレます。なお「大学卒」は22〜23歳入社の想定なので薬剤師とは年齢が少しずれますが、勤続年数ごとの傾向を見るには十分使えます。

医療・福祉は、全産業より低めに出ている(ただし参考値)

同じ調査には業種別の表もあり、調剤薬局が含まれる「医療,福祉」の数字も出ています。大学卒・自己都合で見ると、次のとおりです。

勤続年数医療,福祉(比較)調査産業計
5年41.9万円43.2万円
10年79.3万円112.5万円
20年148.8万円346.8万円

出典:同調査 第8表 モデル退職金(医療,福祉)。医療,福祉の各数値は記入企業数が5社のみのため、あくまで参考値です。

勤続20年で148.8万円(賃金の4.7か月分)と、全産業の半分以下です。ただし記入企業はわずか5社なので、「医療・福祉は必ず低い」とまでは言えません。「手厚いとは言いにくい傾向がありそうだ」くらいの参考値として見てください。

また、そもそも退職金制度がある企業は64.2%(調査産業計)でした。「正社員なら退職金は当然ある」とは限りません(医療,福祉は回答42社中42.9%ですが、これも回答数が少ない点に注意)。

退職金は「後半で一気に増える」設計になっている

先ほどの東京都のデータを、少し違う角度から見てみます。勤続1年あたりにならすと、いくらになるかです。

勤続年数自己都合退職の退職金勤続1年あたり
3年21.5万円約7.2万円
5年43.2万円約8.6万円
10年112.5万円約11.3万円
20年346.8万円約17.3万円
30年750.7万円約25.0万円

東京都「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」第8表(調査産業計・大学卒・自己都合)の金額を勤続年数で割って算出。

勤続が長いほど、1年あたりの金額がはっきり大きくなっています。区切りごとの「増えた額」で見ると、もっと分かりやすくなります。

同じ10年間でも、10〜20年目に増える額は、最初の10年間の約2倍です。退職金は、勤続年数に比例してまっすぐ増えるのではなく、後半になるほど坂が急になるカーブを描いています。

なぜ後半で加速するのか

理由は、会社の規程によって違いますが、一般的には次のような要素が重なっているためです。

  1. 計算の基礎になる基本給そのものが、勤続とともに上がっていく
  2. 勤続年数に掛ける係数(何か月分か)が、年数に比例せず、長くなるほど大きく設定されていることが多い
  3. 自己都合退職の減額が、勤続が長くなるほど小さくなる設計の会社がある

3つ目は、東京都のデータでも傾向が出ています。同じ大学卒のモデルで、自己都合退職の金額を会社都合退職と比べると、勤続3年では約7割、10年では約8割、20年では約85%、30年ではほぼ同額です。短い勤続で自分から辞めるほど、減額の影響を大きく受けやすい、ということです。

退職金には「長く勤めてもらうための仕組み」という面があり、長く勤めた人ほど報われるように、最初からカーブが設計されているわけです。

転職すると、勤続年数はゼロから数え直し

ここで大事なのが、転職したときの扱いです。退職金の勤続年数は、原則としてその会社に入ってからの年数です。転職すれば、また低いところからの積み上げになります。

東京都のモデル退職金でざっくり比べてみると、こうなります。

同じ20年でも、カーブの「前半のゆるい部分」を2回くり返すと、100万円以上の差になります(モデル値での単純計算です)。

多くの薬剤師は、退職金が増え始める前に職場を変えている

では、薬剤師は実際にどれくらい同じ職場で働いているのか。厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」を見てみます(企業規模10人以上・一般労働者)。

まず前提として、この調査で薬剤師の54.4%は女性です。そして、女性薬剤師を「薬剤師としての経験年数」で分けると、次のような構成になっています。

経験年数女性薬剤師に占める割合
0年5.3%
1〜4年28.7%
5〜9年20.9%
10〜14年9.7%
15年以上35.5%

出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」一般労働者 職種 第1表・第14表(薬剤師・女・企業規模計)の労働者数から算出。

経験1〜4年の層が28.7%と厚いのに対して、10〜14年の層は9.7%と、10%を切っています。1〜4年の層の3分の1ほどしかいません。

そして、同じ調査での女性薬剤師の平均勤続年数は8.2年(男女計でも8.8年)です。ここでいう勤続年数は「今の会社に入ってからの年数」なので、退職金の計算に使う年数に近い数字です。

先ほどのカーブと重ねると、見えてくるものがあります。退職金の1年あたりの積み上がりが本格的に大きくなるのは、勤続10年を過ぎたあたりから。一方で、多くの薬剤師は、その手前で職場を変えている。

ただし、この数字の読み方には注意が要ります。

つまり、「女性薬剤師の9割が10年以内に辞めている」という意味ではありません。それでも、同じ会社で退職金カーブの後半にたどり着く薬剤師は、そう多くないということは、データからも読み取れます。

辞めることが悪いという話ではありません。薬剤師は転職で条件を良くできる職種ですし、ライフイベントで働き方を変えるのも当然です。問題は、このカーブを知らないまま辞める時期を決めてしまうことだと思っています。

査定する側から見た「基本給」の話

査定する側から見て、退職金でいちばん見落とされがちなのが「計算の基礎」です。

退職金の計算式は、だいたいこの形

退職金の計算方法は会社によってさまざまですが、よく見られる形を単純化すると、次のようになります。

退職金 = 基本給 × 勤続年数 × 支給率(0.5〜1.0)

最後の「支給率」は、辞め方によって変わる掛け目です。自己都合で辞める場合は低く(0.5程度)、定年など満期まで勤めた場合は1.0、という幅で設定されている例がよくあります。実際の規程では、勤続年数に応じた月数の表を使ったり、辞め方と勤続年数の組み合わせで細かく率が決まっていたりしますが、骨組みはこの3つの掛け算です。

東京都の調査でも、退職一時金制度がある企業のうち「算定基礎額×支給率」で計算する会社が42.0%と最も多く、次いで「勤続年数に応じた一定額」が29.9%、「ポイント制」が10.6%でした。そして、算定基礎額を使う会社のうち、「退職時の基本給」をそのまま使う会社が45.0%、「基本給×一定率」が27.8%。

つまり、計算式の出発点は「毎月振り込まれる額面」ではなく「基本給」であることが多い、ということです。

薬剤師の給与は「手当」が厚い

ここで薬剤師特有の事情が効いてきます。薬剤師の給与明細を見ると、基本給のほかに、薬剤師手当(資格手当)、管理薬剤師手当や役職手当、地域手当、住宅手当、調整手当といった手当がいくつも乗っていることが多いはずです。

薬剤師は採用が難しい職種なので、額面の月給を他社に負けない水準にするために、基本給ではなく手当の部分で金額を積み上げている給与体系は珍しくありません。

その結果、額面の月給に対して、基本給はずっと小さいという構成になりがちです。

額面で退職金を見積もると、大きく外れる

ここに先ほどの計算式を当てはめると、どうなるか。たとえば、仮に額面のうち基本給が半分ほどの構成だったとします。その場合、退職金の計算は額面の半分からスタートし、さらに自己都合なら支給率で減る。「額面×勤続年数」で頭の中で見積もった金額とは、まったく別物になります。

手当の中身や割合は会社によって大きく違います。査定する側の感覚で言うと、年収や月給の額面は、退職金の目安としてはほとんど役に立ちません。見るべきは給与明細の「基本給」の欄と、会社の退職金規程の2つです。

「今辞めると損か」を判断するために、今の職場で確認すること

今の職場を辞めるか迷っているなら、次の順番で確認してみてください。

1. 退職金規程を読む

退職金は、法律で支払いが義務づけられているものではありません。ただし、会社が退職金の制度を設けている場合は、就業規則(または退職金規程)に、対象者・計算方法・支払時期などを定めることになっています。就業規則は従業員が見られる状態にしておく必要があるものなので、在籍中なら確認できるはずです。

見つからなければ、人事や総務に「就業規則と退職金規程を確認したい」と伝えれば足ります。退職の意思を伝える前に規程を見ること自体は、何もおかしなことではありません。

2. 規程で確認する5つのポイント

3. 「区切り」の直前でないかを確かめる

規程を読んだら、自分の勤続年数を当てはめてみます。特に気をつけたいのが、支給対象になる年数や、支給率が切り替わる年数の「直前」で辞めようとしているケースです。

たとえば最低勤続年数が3年の会社で、勤続2年10か月で退職日を設定すると、端数の扱い次第では退職金がまったく出ないこともありえます。退職日を数か月ずらすだけで結果が変わるなら、それは知ったうえで決めたほうがいいはずです。有休消化の期間も、通常は退職日までは在籍している扱いになります。退職日の組み方は、ボーナスをもらってから辞める段取りの考え方と同じなので、あわせて読んでみてください。

4. そのうえで、「そこまで働けるか」を天秤にかける

最後に、いちばん大事なことです。区切りまであと少しだと分かっても、そこまで今の職場で働き続けられる状態かどうかは、また別の問題です。

数か月で届く区切りなら、待つ価値があるかもしれません。でも、数十万円の差のために1年以上すり減りながら働くのなら、割に合うとは限りません。お金より心身、この順番は崩さないでください。退職金は「残る理由」ではなく、「辞める時期を決めるための材料の一つ」として使うものだと思います。

辞めると決めたら、切り出し方や引き継ぎの進め方は薬剤師の退職交渉・引き継ぎ完全ガイドにまとめています。

転職先の退職金規程は、どこを見ればいいか

求人票の退職金の欄は「有」「無」くらいしか書かれていないことが多く、それだけでは中身は分かりません。勤続が短いうちの退職金は小さいので、「長く勤めるつもりの会社かどうか」で、退職金の重みづけを変えるのが現実的です。

転職先で確認しておきたいこと

特に3つ目は、内定時の給与提示で「基本給」と「各種手当」の内訳を必ず確認してください。額面が同じ2社でも、基本給の比率が違えば、長く勤めたときの退職金は変わってきます。

中退共の場合の注意点

中小企業では、退職金の準備に中小企業退職金共済(中退共)を使っている会社がよくあります。東京都の調査でも、退職一時金制度がある企業の50.9%が中退共を利用していました。

中退共は、会社が毎月掛金を積み立てる仕組みです。注意したいのは、掛金を納めた期間が1年未満だと退職金は支給されず、1年以上2年未満だと納めた掛金の合計を下回るというルールがあることです。入社して1〜2年で辞める可能性があるなら、ここは頭に入れておいてください。

企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合の注意点

最近は、退職金の一部または全部を企業型確定拠出年金(企業型DC)にしている会社もあります。会社が出した掛金を、自分で運用していく仕組みです。一時金の退職金とは性格がかなり違うので、次の点を押さえておいてください。

企業型DCは、転職しても資産を持ち運べるのが利点です。今の職場が企業型DCなら、退職前に移し先まで決めておくと安心です。

面接や転職エージェント経由での聞き方

「退職金のことを聞いたら、すぐ辞めるつもりだと思われないか」と心配な方もいると思います。採用する側から見ると、労働条件の確認そのものは自然なことです。気をつけたいのはタイミングと言い方です。

面接で聞くなら、最後の質問か条件確認の場で

面接の冒頭から待遇の話が中心になると、「条件にしか関心がないのかな」という印象を持たれやすいのは確かです。仕事の話をひととおりしたうえで、最後の逆質問や内定前後の条件面談で確認するのが無難です。長く働く前提を添えるだけでも印象が変わります。

聞き方の例

「長く働きたいと考えているので、福利厚生についても確認させてください。退職金制度はありますか。あれば、何年目から対象になるかと、計算の基礎が基本給かどうかを教えていただけますか。」

内定が出たら、給与の内訳(基本給と手当)とあわせて、退職金の有無と計算方法を書面やメールで確認しておくと、入社後の「聞いていた話と違う」を防げます。面接全体の考え方は採用する側が本当に見ているところにまとめています。

自分で聞きにくいことは、エージェント経由で

転職エージェントを使っている場合は、自分では聞きにくい条件面の確認を、担当者経由で頼めるのが大きな利点です。項目を具体的に伝えると、答えも具体的に返ってきやすくなります。

エージェントへの頼み方の例

「この求人の退職金について、①何年目から支給対象か、②計算の基礎が基本給か、③自己都合退職の場合の扱い、④中退共や確定拠出年金かどうか、を先方に確認していただけますか。」

退職金で取り返せない分は、年収で取り返すという考え方

「もう転職しているから、カーブの前半をくり返してしまった」と感じた方も、落ち込む必要はありません。退職金の差は、何十年もかけてやっと効いてくる差です。一方で、年収の差は毎年効いてきます。退職金で不利になった分は、転職で年収を上げることで取り返す、という考え方は十分に成り立ちます。むしろ20〜30代のうちは、退職金カーブの前半にいる時間が長いぶん、退職金より毎年の年収のほうが、手元に残るお金への影響は大きいことが多いはずです。

ただし、年収を上げる転職は、条件交渉の力が結果を大きく左右します。希望条件をはっきり伝えて、薬局側と交渉してもらえるタイプのエージェントを使うのも一つの手です。条件にこだわって求人を探してもらう使い方については、ファーマキャリアの評判・口コミで整理しています。自分の年収が相場と比べてどうなのかを知りたい方は、薬剤師の年収相場まとめもあわせてどうぞ。

「退職金で損をしないように我慢して残る」か「辞める」かの二択ではなく、退職金・年収・働きやすさを並べて、自分にとっての損得を計算する。それが、この記事でいちばん伝えたかったことです。

まとめ

退職金は、知っていれば「何か月ずらせば済む話なのか」「気にしなくていい金額なのか」がはっきりする分野です。まずは今の職場の規程を一度開いてみてください。この記事が、辞める時期と次の職場を自分で判断する材料になればうれしいです。


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※本記事は、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」、厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」の公表データと、運営者の管理職としての経験をもとに整理したものです。モデル退職金は各社の規程から算出された想定値であり、実際の退職金額・支給要件は勤務先の就業規則・退職金規程により異なります。企業型確定拠出年金・中小企業退職金共済の取り扱いは、各制度の規約・最新の公式情報をご確認ください。