こんにちは、「転職案内人」です。現役の薬剤師として働きながら、5店舗を管轄する係長をしています。薬剤師歴は12年で、スタッフから退職の申し出を受け、退職を承認する立場です。

辞めることが決まった。次の職場の入職日も見えてきた。そこで気になるのが、「残っている有給を、全部使って辞められるのか」ではないでしょうか。「引き継ぎが終わるまでは認めない」「人が足りないから全部は無理」と言われたらどうしよう、と考えて、切り出す前から身構えてしまうこともあるでしょう。

この記事では、有給の申請をどう出すか、会社に渋られたときに法的にはどう整理されていて、現実にはどこで折り合うのかを、申請を受け取る側から見た構造とあわせてまとめます。先に結論を書いておきます。

なお、最終出勤日・引き継ぎ・有給消化・退職日の並べ方や、次の入職日からの逆算は、薬剤師の退職交渉・引き継ぎ完全ガイドにまとめています。この記事は日程の組み方ではなく、「申請の仕方」「渋られたときの考え方」「買い取り」「消化中の立場」に絞ります。

年次有給休暇の基本——要件・日数・時効

まず、前提になる制度を確認します。厚生労働省の「確かめよう労働条件」によると、年次有給休暇(年休)は、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に、労働基準法39条にもとづいて与えられます。その後は勤続年数に応じて日数が増え、上限は20日です。週5日勤務(常勤)の場合の日数は次のとおりです。

継続勤務付与日数
6か月10日
1年6か月11日
2年6か月12日
3年6か月14日
4年6か月16日
5年6か月18日
6年6か月以上20日

厚生労働省「確かめよう労働条件」の年次有給休暇の解説をもとに作成。パート・短時間勤務など所定労働日数が少ない場合は、日数が異なります。

常勤の薬剤師は、6年6か月を過ぎれば毎年20日です。年休には2年の時効があり、発生から2年間は使えるので、理屈の上では最大で40日(20日×2年分)が残っている人もいます。

在職中に取れていなかった人は、辞めるときの残日数が多くなります。取れない構造は、薬剤師が有給を取れない・週6勤務・12連勤になる本当の理由で書きました。

年休は「承認をもらうもの」ではなく「請求するもの」

厚生労働省の解説では、年休は「労働者の請求する時季」に与えなければならないとされ、労働者が指定した日がそのまま年休になり、使用者の承認は必要ではない(最高裁の白石営林署事件の判決)と説明されています。法律の建て付けは、「許可をもらう」ではなく「この日に取ります、と請求する」です。

とはいえ現場では日程のすり合わせが必要なので、この記事の例文は、「予定として日付を出し、調整が要るところは相談する」形にしています。

会社の「時季変更権」と、退職日が決まっているとき

会社には、労働者が指定した日に年休を与えると「事業の正常な運営を妨げる」場合に限って、別の時季に変えてもらう権利(時季変更権)があります。厚生労働省の解説では、その例として、年末など特に忙しい時季を指定した場合や、同じ時期に多くの労働者の年休が重なる場合が挙げられ、判断は個別的・具体的・客観的に行うものとされています。

ここで大切なのは、時季変更権は「別の日に変えてもらう」ための権利だということです。変える先の日がなければ使えません。退職日が決まっている場合について、厚生労働省は次のように整理しています(要旨)。

都道府県の労働局のQ&Aにも、退職間際の年休の申請は拒めない、実際上、引き継ぎが必要なら退職日を遅らせてもらうなど、退職する人と話し合ったほうがよい、という趣旨の説明があります(沖縄労働局・和歌山労働局など)。

つまり公的な説明では、「引き継ぎが終わらないから有給は認めない」は通りにくい一方、会社が退職日の延期を「お願い」することはあり、受けるかどうかは自分で決められます。この2つを分けて考えておくと、話し合いが整理しやすくなります。

消化しきれない有給は、買い取ってもらえる?

「全部は使えないから、残りは買い取ってほしい」と考える人もいると思います。ここは、期待しすぎないほうがよい部分です。

労働局のQ&Aでは、年休の目的は休むことなので、法定の年休の買い上げは原則としてできないとされています。買い上げの予約をして請求できる日数を減らすことも法違反です。例外として明記されているのは、法律を上回って会社が独自に与えている年休です。

退職で消える分を会社の判断で買い取る例はあるとされますが、会社に買い取る義務はありません。公開されている厚生労働省・労働局のQ&Aを見る限り、退職時の残日数について、会社に買い取りを求められるとする説明は示されていません。ですから、「買い取ってもらえるかもしれない」を前提に、消化せずに出勤を続けるのは避けたほうが安全です。

もし会社から「買い取るから、残りは消化せずに出勤してほしい」と提案されたら、受けるかどうかは自分で決めて構いません。受ける場合は、後から食い違わないように、対象の日数と金額、支払い時期を事前にメールなど書面で残しておいてください。

受け取る側から見た「渋られる」構造

権利があるのに、なぜ渋られることがあるのか。申請を受け取る側の立場で整理すると、多くの場合、「有給そのもの」ではなく「その間の段取り」が引っかかっています。受け取る側の頭の中には、次のようなことが並びやすい、という構造です。

渋られやすい場面受け取る側が気にしていること進める側の打ち手
日程が見えない
突然「◯日から有給で」と言われる
引き継ぎが終わるのか、いつまで出勤してもらえるのか分からない引き継ぎの終了日を、日付で先に示す
後任・人員の穴
後任が決まっていない、シフトが組めない
消化期間に入った瞬間から、その人の分が欠員になる消化に入る日を早めに伝え、シフトの準備期間を取る
周りとの公平感
在職中は有給が取れていない職場
辞める人だけが長期で休むように見え、残るスタッフに説明しづらい残る人の負担が増えすぎない日程にする
手続きの重さ
管理薬剤師、給与・保険の処理
管理薬剤師の変更の届出など、期限のある手続きが重なる早めに申し出て、手続きの期間を確保する
会社の理解不足
退職時の扱いを知らない
「前例がない」「退職前は取れない決まり」と思い込んでいる人事・本部に取り扱いを確認してもらう

申請を受け取る側の事情を、一般的な構造として整理したものです。会社の規模や人員の状況によって異なります。

部下から「残っている有給を全部使って辞めたい」と言われたら、受け取る側としては、使わせるしかない、と受け止めています。そのうえで私は、「4月に付与される有給は、その年度のあいだ勤務することを前提にした日数なので、店舗の状況も踏まえると、必ず全部使えるとは言い切れない」と先に伝えるようにしています。

これは、渋るための説明というより、受け取る側の感覚を正直に伝えているものです。ただ、ここまでの公的な説明のとおり、退職日が決まったあとに残りの日数を請求された場合、会社が拒むことは難しいとされています。ですから、受け取る側からこう言われても、日数を数字で出して、引き継ぎの日程とセットで話を進めることが大切です。

揉めやすいのは、本人が自分の要求を「闘い」のように持ち込んだときです。権利として主張するのは自由ですが、言い方が勝ち負けの形になると、受け取る側も構えてしまい、話し合いが進みにくくなります。

もうひとつ、現場の事情として、店舗へのヘルプの状況や、その日に当てられる人員の都合で、希望どおりの日程にならないことはあります。日程を「全部この日から」と固定せず、調整の余地を残して出したほうが、お互いに話しやすくなります。

こうして見ると、渋られる理由の多くは、権利を認めたくないというより、「その間どうなるのか」が見えないことにあります。先に日程と引き継ぎの終了日を示せば、不安の多くは先に潰せます。日付も計画もないまま「全部取ります」とだけ伝えると、権利は同じでも話はこじれやすくなります。

有給の申請の進め方

① 残日数を確認する

まず、自分に有給が何日残っているかを正確に押さえます。給与明細や勤怠システムで分かる会社もあれば、人事や事務に問い合わせる必要がある会社もあります。前年からの繰り越し分と今年の付与分が別に管理されていることもあるので、内訳まで聞いておくと安心です。

② 退職の申し出と同時に、日程案を出す

有給の話は、退職日が決まってから「実は有給が」と切り出すより、退職の申し出と同時に日程案として出すほうが、受け取る側は段取りを組みやすくなります。切り出し方そのものは退職交渉・引き継ぎ完全ガイドに例文があります。有給の話を足す場合は、次のような言い方になります。

口頭で伝える場合

「◯月◯日付で退職させていただきたいと考えています。有給が◯日残っているので、◯月◯日までを引き継ぎにあてて、◯月◯日から退職日までを有給消化にしたいと考えています。引き継ぎの資料と、後任の方への同行は、◯月◯日までに終わらせる予定です。」

「取らせてもらえますか」と許可を求める形より、予定として日付を出し、そのうえで調整が必要な点を聞く形のほうが、話が具体的になります。

③ 引き継ぎとセットで出す

日程案には、引き継ぎの内容と終了日を添えます。項目を箇条書きにして「◯日までに終えます」と見せるだけで、受け取る側の安心感は変わります。管理薬剤師の引き継ぎの中身は、退職交渉・引き継ぎ完全ガイドの「薬剤師ならではの引き継ぎ事項」の章に書いています。

④ 口頭で終わらせず、メールで残す

面談で話した内容は、あとからメールで確認の形にして残します。合意が曖昧だと、あとで食い違いかねません。

メールの例

件名:退職日と有給休暇の取得予定について(◯◯)

◯◯店長(◯◯係長)

お疲れさまです。◯◯です。先日お話しした退職の件で、日程の案をまとめましたので、ご確認をお願いします。

・退職日:◯月◯日
・最終出勤日:◯月◯日
・引き継ぎ期間:◯月◯日〜◯月◯日(業務リストの作成、後任の方への同行)
・有給休暇の取得予定:◯月◯日〜◯月◯日(◯日分)

引き継ぎの内容と日程について、調整が必要なところがあればご相談ください。ご確認のうえ、ご返信をお願いします。

感情的な言葉は入れず、日付と日数だけを淡々と書くのがコツです。

渋られたときの考え方と落としどころ

まず、渋られた理由を聞く

「全部は無理」と言われたとき、最初にやることは反論ではなく、何が引っかかっているのかを聞くことです。前の章の表のとおり、理由が「引き継ぎが終わらない不安」なのか、「人が足りない」なのか、「そういう決まりだと思っている」なのかで、打つ手が変わります。

理由を確かめる言い方

「全部は難しいとのことですが、いちばん心配されているのは、引き継ぎが終わるかどうかでしょうか。それとも、シフトの人数のことでしょうか。」

理由別の返し方

「引き継ぎが終わってないのに」と言われたら

「引き継ぎが終わる前に休みに入るつもりはありません。◯月◯日までに、こちらのリストの項目をすべて終える予定です。足りない項目があれば追加してください。そのうえで、◯月◯日から有給に入りたいと考えています。」

「人が足りないから、全部は無理」と言われたら

「人手が足りないことは分かっています。ただ、退職日を過ぎると有給は使えなくなるので、できるだけ取りたいと考えています。シフトに入れない日を先にお伝えするので、◯日分は消化させてください。そのうえで、残りの日数をどうするかは、一度相談させてください。」

「前例がない」「うちは消化させていない」と言われたら

「労働基準法の取り扱いと、会社の就業規則での扱いを、人事(本部)にも確認していただけないでしょうか。確認の結果を教えていただければ、日程を調整します。」

最後の言い方は、対立せずに、判断を上司個人から会社の窓口に移すのがねらいです。退職時の有給の扱いは、上司個人では判断しにくい話でもあります。

現実的な落としどころ

公的な説明では、退職前の有給を会社が拒むことはできない、とされています。それでも現場では日程の調整が必要になります。日数を減らす調整は、権利の一部を譲ることになるので、応じるかどうかは自分で決められます。そのうえで、選択肢を整理しておきます。

選択肢内容注意点
引き継ぎ完了後に消化に入る引き継ぎの終了日を先に示し、その翌日から有給消化に入る基本の形。日程が明確なほど渋られにくい
一部を在職中に前倒しで取る最後にまとめず、引き継ぎ期間中に数日ずつ取る欠員の負担が分散され、受け取る側も組みやすい
退職日をずらす退職日を数週間延ばし、引き継ぎと消化の両方の期間を確保する応じるかどうかは自分で決められる。入職日・賞与・退職金への影響を確認する
一部を取らずに退職する会社の事情を踏まえ、あえて何日かは使わない退職で権利は消える。譲る日数を自分で決め、書面に残す
会社が買い取る消化しきれない分を、会社が任意で払う会社に義務はない。日数・金額・時期を書面で確認する

厚生労働省の解説・労働局のQ&Aで確認できる内容と、一般的な実務の選択肢をあわせて整理したものです。

退職日をずらす場合は、退職日の前後で賞与や退職金の扱いが変わることがあります。ボーナスをもらってから辞めるのはアリ?と薬剤師の退職金はいくら?もあわせて確認しておくと、ずらす日数を決めやすくなります。

感情的にならないための進め方

権利は権利として持ちながら、争うことそのものを目的にしない。ここが、最後まで気持ちよく辞められるかどうかの分かれ目になります。

有給消化中の立場——給与・社会保険・次の職場との関係

消化期間に入ると、出勤はしなくなりますが、退職日までは会社に在籍している扱いです。ここでは基本だけ押さえます。

給与

年休を取った日の賃金は、労働基準法で、就業規則などで定めたところにより、①所定労働時間働いた場合の通常の賃金、②平均賃金、③健康保険法の標準報酬日額(労使協定がある場合)のいずれかを支払うことになっています。年休を取ったことを理由に賃金を減らすなどの不利益な扱いをすることも禁じられています。自分の会社がどの計算かは、就業規則で確認できます。

社会保険

日本年金機構の案内では、退職による健康保険・厚生年金保険の資格喪失日は「退職日の翌日」です。たとえば3月31日に退職すれば、資格喪失日は4月1日です。保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで納めるので、月末日に退職すると、その月分まで納める扱いです。有給消化中も、退職日までは加入が続きます。

次の職場との関係

有給消化中は在籍中なので、次の職場の入職日は、退職日の翌日以降にするのが基本です。退職日と入職日の並べ方、薬剤師特有の重複勤務の注意点は、退職交渉・引き継ぎ完全ガイドの「次の職場の入職日との逆算」と「退職後の元職場との関係」の章を見てください。離職票・源泉徴収票・保険の切り替えなど、退職時の書類の確認は退職代行を使う前に知っておきたいことの「有給消化・離職票・調剤関連の書類」の章にもまとめています。

消化に入る前に、「連絡手段」と「答えられる範囲」を決めて引き継ぎ書に書いておくと、消化中の無用な連絡を減らせます。

人が足りない店舗で消化するとき——管理薬剤師・少人数店舗の現実

「それでも自分の店舗は、人が足りなくて難しい」と感じる人もいるでしょう。規模の小さい薬局では、薬剤師が一人欠けるだけでシフトの組み方が変わります。消化期間が長いほど、その間の穴が直接目に見える形になります。

さらに管理薬剤師の場合は、後任の問題が重なります。薬局には管理者が必要で、管理者が代わったときは、会社が30日以内に都道府県などへ変更を届け出ることになっています(窓口は多くの場合、保健所です)。後任を社内で探すにせよ採用するにせよ、時間がかかります。受け取る側から見ると、有給消化に入る日が「後任の引き継ぎの終了日」と重なるかどうかが大きな関心事になりやすい、という構造です。

認める・認めないのどちらの場合も、受け取る側の事情は、突き詰めるとシンプルです。単純に人が足りないので、辞める人の穴を埋める人を呼べない、ということです。悪意があるというより、「辞める日の前後にその店に入れる人がいない」という、人員の問題がほとんどです。

人員の手当ては会社の責任で、申請する側が全部背負う必要はありません。そのうえで、現実の進め方としては次の2点を意識すると、話が進みやすくなります。

どうしてもまとまらないときの相談先

社内で話し合っても進まない場合は、外部の窓口を使うこともできます。一般的な案内にとどめますが、総合労働相談コーナーは、各都道府県の労働局や全国の労働基準監督署内などに設置されていて、厚生労働省によると、予約不要・無料で、面談か電話で相談できます(土日祝日・年末年始は閉庁)。解雇、賃金、いじめ・嫌がらせなど、労働問題全般が対象です。労働基準法などの違反の疑いがある場合は、行政指導などの権限を持つ労働基準監督署の担当部署に取り次ぐことになる、とされています。

個別の労働紛争については、「助言・指導」や「あっせん」の案内も受けられます。ただ、会社との関係に影響することもあるため、まず日程案をメールで出し、社内の窓口に判断を求めたうえで、それでも動かないときの選択肢として知っておくくらいがちょうどよいでしょう。

上司と話すこと自体が難しい場合は、退職代行という手段もあります。ただし、有給の交渉までできるかどうかは、運営主体によって異なるとされています。使う前に、できる範囲を確認してください。

まとめ

有給は、これまで働いた分の権利です。退職前に残日数を使い切ることは、厚生労働省の解説でも、会社が拒めないものとして説明されています。ただ、辞めたあとも、同じ業界で顔を合わせる可能性は残ります。権利は権利として手放さずに持ちつつ、「全部を、今すぐ、争う」のではなく、日付と引き継ぎをセットにして、段取りで通す。それが、角が立ちにくく、望む日数に近づきやすい進め方です。


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※本記事は、厚生労働省「確かめよう労働条件」の年次有給休暇の解説、各都道府県労働局の年次有給休暇に関するQ&A、日本年金機構の資格喪失・保険料に関する案内、厚生労働省の総合労働相談コーナーの案内、都道府県の薬局の変更届に関する案内などの公表情報と、運営者の管理職としての立場から見た一般的な整理をもとにまとめたものです。例文は説明のための例です。有給の扱いは、勤務先の就業規則や雇用契約、個別の事情によって異なる場合があります。法制度の取り扱いは変わることがあるため、最新の公式情報をご確認ください。